あるクレリックの日常4

 これは 2020 年 3 月ごろのお話。

 Lower Guk で蘇生をしてほしいという tell がくる。

 ここは死体がゾーンラインに無くても依頼を受けることができる、クレリックがほぼ自由に動ける数少ない場所の一つだ。

 場所は ass/sup 付近、つまり a ghoul assassina ghoul supplier ・・・

 あのはしごの上は、決して素人が近づいてはならぬ、魔界の一角。

 やらないでもいいのに、その魔界に上がってみる。

 のそり。のそり。

 

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人が多すぎて空間が歪んでやがる。

 Guise of the Deceiver A.K.A.「あのマスク」のせいで、常時ビジーである。

 思い返せば 20 年前も、このマスクを愛用していた私。ハイエルフだったので、エビルちほーに行くときはよく使ったものだった。しかし、明らかにゲームバランスを壊していたためそのうちナーフされ、ローグとバードしか使えなくなる 別のアイテム に差し替えられることになる。

 当時はナーフされるなんて誰も知らなかったので簡単に取れたし、逆に取っていなかった人々は NO DROP なので泣き寝入りだ。

 Project1999 では当時を再現するためにまだ誰でも使えるオリジナルバージョンを落とすのだが、あの頃と違うのは、このサーバーの住人はナーフされることはおろか、この時点であと 1 ヶ月程度の猶予しかないということまで一般常識となっている。

 すると、どういうことが起きるか?

 ゴゴゴゴゴッゴゴゴゴッ・・・!

 魔界が出現する!

 そう、眠れない魔界が・・・!

 ドロップレートは渋いし需要が高すぎだわで、24 時間体制のキャンプには長蛇の列だ。しかも、あまりにも暇だわ眠いだわで、普段は紳士を装っている本性がそのうちむき出しになる。

 全員疲れ切っており、ooc なんて相手にしない。というか見てもいないから、camp check にも無反応。痺れを切らした noob が「ass/sup は誰もいないのか?」という愚問からのお決まりの流れ・・・

「ooc: 寝言か?」

「ooc: そうだな、これは夢だ。悪夢のほう」

「ooc: もしもだ・・・俺が明日まだここにいたなら頼む。殺してくれ」

「ooc: マスクなんてどうでも・・・こっち (マナストーン) なんて死人が出そうだぜ・・・リアルで」

 返答も悲惨なものばかり。

 運営も、2010 年頃にはじめた Blue サーバで苦い経験をしているらしい。クラシックと同じ環境を作りたい、しかし全員がナーフされるとわかっているから、凄まじいキャンプになってしまう。誰かがキルスティールのような素振りを少しでも見せると、早晩醜悪な /shout 合戦へと突入。こうした高需要アイテムのキャンプでは、諍いがつきものだ。

 GM を呼ぶようなことも多く、しかしボランティアしかいない Project1999 では重荷だ。新しいサーバーをリリースするとなると、ナーフされる予定のレガシーアイテムに対して何らかの対策が必要なのは、彼らも経験上わかっていることだ。そこで、Green サーバーのリリース時にある機能を追加した。

それが、list コマンド である。

 どういうものか、具体的に説明したほうが早そうだ。

 特定のレガシーアイテムを落とすモブが沸く一定の範囲内に立ち入ると、定期的にこういうウィンドウがポップアップする。

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 指示通り /list afk 5759 と入力する。この 4 桁の数字はランダムに変わるので、自動化はできないようになっている。応答すると今現在自分がリストの何番目にいるのかが表示される。

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 また、このウィンドウが出るタイミングもある程度ランダムになっている。感覚では 9 分から 15 分のあいだだ。GINA のようなログ監視アプリが広く普及しているため、ポップアップの時点ではログに一言も現れないのも、なかなかのいやらしい設計になっている。

 つまり、自分のリストのポジションを維持したい以上は、ちゃんと画面を見ていて、この入力作業を必ずしなければならないようになっている。

 これはもうゲームではない。ただの試練だ。

 なお、レガシーアイテムを落とすとポジション 1 の人しかルートできない。たとえそのモブを自分が殺していなくても、1 番目の人しか拾えないシステムになっている。アイテムを落とした時、1 番目の人にはその旨が表示される。

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 さて、蘇生依頼も終わったし、

ノリで並んでみた。

 ポジション 11 からのスタートだ。正直、これがいいか悪いのかさっぱりわからない。ちょうど金曜日の夜だし、最悪このまま本気モードにスイッチが入ったとしても、そのまま地獄のキャンプに突入できる状況ではある。

 さて、この Guise マスクを必要とする人はどういう人々だろうか?

 ダークエルフの種族特性 Ultravision である。ヒューマンは夜目がほぼ効かないため、モンクが多い。それと、オーガとトロールは細くなれるため、高価なシュリンクポーションが不要になる。それ以外だとグッド種族がエビルの街で売買できるようになる。

 私の場合は、それだけではない。

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 Manastone ・・・これはレガシーアイテムの代表格で、/list のようなものを実装せざるを得なかった元凶でもある。

 20 年前のあの頃、マナストーンと言えば、通りがかりに取れるようなごく軽いものだった。そもそも日本時間だと普通に EE が沸いて放置されていたほどだ。

 クレリックはワイプ後の蘇生祭りはもとより、誰かが死んだ時のバフなど、急に大量のマナを消費する場面がよくあるクラスだ。あの髑髏の煙を常にあげているほど必須のアイテムだったし、私も散々使ってきた。というより使わされてきたと言った方が正しい。あれを持っていないクレリックがレイドにいたら

ーーマナストーンのないクレリックなんて・・・

 みたいな呪詛が平気で飛び出てくる。いわゆるマナストーン・ハラスメント A.K.A. マナハラである。

 60 HP から 20 mana に変換するのは相当効率が悪いものの、シャーマン以外でも HP を mana に変換できるため、このアイテムは明らかにゲームバランスを壊していた。当時はクレリックに必須のアイテムと思いつつ、まがりなりにも聖職者なのに髑髏を纏うなんて・・・と、どこかに違和感もあった。だからナーフされた時は腑に落ちたものだ。

 ナーフ後は EE はもうマナストーンを落とさなくなったし、以降の拡張で追加されたゾーンでも動作しない。

 その上、このサーバーではドロップレートを異常に絞っているようで、最低でも数日間キャンプをしないと取れない。しかもこれを取り逃すと、アカウントを共有して3交代制で延々とキャンプしているようなファーマー軍団に 200k プラチナを払う羽目に・・・。まさしく、凄惨なキャンプとなっている。

ーーいい加減リアルで死人が出るぞ!

 なんて、フォーラムでも本気で危惧されていたほど。そんな地獄のキャンプに単身で挑むべきなのか? その前にまずはこの Guise で予行演習しておこう。これを切り抜けられれば、まだ芽もあるかもしれない。ま、マナストーンはこのマスクよりも何倍も大変になるだろうが、雰囲気ぐらいは掴めるだろう。

 そういう背景で始めた Guise キャンプ、だったが・・・

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 まじで渋い。

 そもそも assassin が沸きにくいし、アタリのダガーもしっかり邪魔をしてくる。

 アサシン沸いた! かーらーのー! ダガーかよ!

 という時の絶望感たるや、それはもう半端ない。

 例の AFK チェックのため、ちょっとした外出はもちろん、うとうとも出来ない。

 そうして、中の人の体力はどんどん奪われていく。

我々の HP はもうゼロだ。

  こういうものはレベル 50 にしてから参加すべきだと思っている私からすれば理解できないのだが、どういうわけか「ついでに xp を稼ごう」と適正レベルで来ているような輩ばかり。そのくせ戦闘に参加せず xp だけ食っているような DQN もちらほらいる。

 これほど人がいるのにもかかわらず、ワイプ直前までいくことがままある。

 悪いことに、ここには人が大勢がいることが知れ渡っているため、死にそうになったヤツがトレインを作って駆け込んでくることもある。一方我々 Guise キャンプのほうはというと、万が一でもワイプしてしまうと折角稼いだリストがおじゃんになる可能性だってあるのだ。

 絶対に死ねないのに、真面目に戦闘に参加するキャラは数人、他は微動だにしない。

 それこそ、トレインが来た時は毎回死闘である。

 疲れたわ、眠いわ、神経はすり減るわ・・・

 そんな中で、私にとって唯一のトランキライザーが蘇生業務だった。

 というのも、90% 経験値バックの蘇生ができるクレリックはこのゾーンにほぼ私だけだったらしい。ooc で蘇生を叫んでいる人がいたので、いつものごとく tell で「ass/sup に持ってきたら蘇生するよ」と伝える。すると、どういうわけかその話が広まってしまい、そのうち

「ooc: 俺たちには Neko がいる。ass/sup に持ち込むんだ」

 なんてアナウンスまでされた挙句、何もしなくても次から次へと死体が運び込まれてきては私が蘇生し、ここで回復してからまた出撃という流れができてくる。

 Guise 仲間からは、

「ooc: おいお前ら、ass/sup は病院じゃねえぞ!」

 とか、

「ooc: うちの Neko、プラチナが重くて歩いてるぞ!」

 などと仲間に揶揄される始末。

 始めてから 25 時間でついにブツをゲットしたのではあるが、よーく思い返せば蘇生をしにきたら 1.5k プラチナとついでに Guise もいただきました〜なんていうのは、いつもの伝である。

 

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 これは、全工程のグロいログ。

  • ポジション: 経過時間 (前回からの時間) AFKチェック回数 (その間のルート)
  • 11 -> 10: 1:05 (+1:05) 9回
  • 10 -> 9: 1:45 (+0:40) 4
  • 9 -> 8: 2:17 (+0:32) 4回 (1 guise)
  • 8 -> 7: 3:02 (+0:45) 5
  • 7 -> 6: 5:06 (+2:04) 16回 (1 guise)
  • 6 -> 5: 12:18 (+7:12) 43回 (2 dagger, 1 guise)
  • 5 -> 4: 12:57 (+0:39) 3回 (1 guise)
  • 4 -> 3: 18:01 (+5:04) 32回 (1 guise)
  • 3 -> 2: 22:43 (+4:42) 28回 (1 dagger, 1 guise)
  • 2 -> 1: 23:06 (+0:23) 3回 (1 guise)
  • 1 -> 0: 24:55 (+1:49) 25回 (1 guise -> 私!)

 見てわかる通り、最初の頃のポジションが浅いうちは繰り上がるのも早い。これは、このキャンプがいかにエグいかを思い知って離脱していく人が多いからだろう。Guise が出てないのにポジションが変化しているのがわかる。

 しかし、深くなればなるほど Guise が落ちないとポジションが動かなくなってくる。ここまで並んだのだから、何がなんでも持って帰る! という心理になるのだろう。ドロップ運が下振れしているときは、何時間も動かないことがままある。この例でいうと 6 番の時・・・なんと深夜 0 時から朝の 7 時まで一個も出ないとか、あのね!

 まさに、絶望。

 疲労と睡眠不足からのアイテムぽろりというカタルシスは、EverQuest というゲームの本質ではあるのだが、それではマナストーンも・・・

 やるわけねえよ!!

 

それでは、ハッピー地獄のキャンピング!