あるクレリックの日常5

 2021 年 1 月某日。

 Splitpaw で蘇生の依頼がきたので、South Karana に走る。

 暇だし、ついでに観光でもしていこうと各キャンプを回っていると……

 北のアンデッドの集落を横目で見ながら、そういえばライブでとうとう取る機会がなかった〝あの盾〟は、たしかここだっけなぁ……

 今日は、Aegis of Life というクエストのお話。

 

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 モノ自体は盾だが、実際は背中に装備する。

 ウイズダムを維持しつつ SvD を +25 も稼げるというのは非常に重要である。でも正直、こればっかりは考えたくなかった。万が一スイッチがはいっちゃったりすると〝想像を絶する試練〟が待っているからだ。知り合いのクレリック

――あんなものはこの世界に存在しない。以上

 と唾棄する代物。

 ここはすぐそこの北カラナちほーのドルイドリングからスプリットポーへの街道にもなっているため、通りがかる人も多い。何が行われているのかを知っている人がかけてくる言葉も悲壮感が漂っている。

――友達がやったときは 3 週間かかったわ

――私のギルドメイトは「ここだけは近づくな」なんつって

――俺だったらやらない

 聞けば聞くほどやる気をなくすし、それどころかこんな輩も。

 悪名高い某ギルドのクレリックが私のそばを行き過ぎてははたと立ち止まり、そしてわざわざ後ろ足で戻ってきては Aegis of Life のリンクを見せる!

 かーらーのー?

「あれ、まだ取ってないんだ」

 うはwww おkwww

 なんなんだ、こいつは……

 それはともかく、ここはノーラスで3本の指に入るほどの恐るべきキャンプとして、つとに有名なのだ。

 この悪名高すぎるレアモブ〝Lord Grimrot〟 には、二形態がある。

 人間の Live バージョンと、骨の Undead バージョンである。

 それぞれ 心臓 というクエストアイテムを落とすのだが、これらは幸い 100% ドロップであるから湧きさえすればいい。

 前者のスポーンレートが 8%、後者は 2% と、相当に渋い。

 ま、それでも、数回通えばよほど運が悪くない限り取れるとも思う。

 ただし、一つだけ大きな問題がある。

リスポーンタイマーが 3 時間 12 分ということだ。

 馬鹿なのかな?

 こんなのどこの誰が狙おうなんて思うのか。

 2% チャンス3 時間おきに祈り続けるなど、気狂いだ。

 大事なことなのでもう一度言おう、気が狂わないとやらないレベルだ。

 なーんて思いながら、この日たまたま PH が沸いたまま放置されてやがる。〝なんとなく〟ぶっ殺し、そして GINA に作った即席タイマーも〝なんとなく〟仕掛けてから、蘇生や木馬のヘルプなどをして、気がつけば 10 分前の警告が出た。ま、どうせ湧くのは PH だろうと思いながらも、スポーン時間を持っているというアドバンテージを捨てるのも〝なんとなく〟だが勿体ない。

 そして待つこと数分。

 ぶーーーーーー!

 

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 飲んでいた お〜いお茶吹き出した。

 8% のほうの Lord Grimrot 様が湧きやがり、一発目で鎌が取れてしまった……

 

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 こ、これは、もしかすると……諦めていたあの伝説がワンチャンあるかもしれない。

 もしもあなたが賢明なノーラシアンだったのなら、この時点で薄々勘づいていることだろう。これが、

ノーラスの罠であるということを。

 トイレを借りるつもりで入ったパチンコ屋で、500 円が 5 万円になっていた。

 友達に連れられてしぶしぶ行った競馬場で、万馬券を握っていた。

 すでに数千億を投資した公共事業が、蓋を開ければ数兆円かかる可能性が云々。

 どれも知らぬ間に沼に引きずり込まれ、気づけば大損なんてね、ありふれた話どころか耳タコである。

 どうしてレートの高い Live バージョンなんてものが用意されているのか、少し考えればわかりそうなものだ。この鎌をデストロイしてすっぱり忘れていれば良かったのに、その後どのような試練に見舞われようと、ビギナーズラックが冷静な判断の邪魔をしてくる。

 かくしてその後 5 回ほど PH を見た頃。このキャンプを競っていたハーフリング・クレリック〝R 某〟のスイッチが入ってしまったらしい。フレンドリストに入れて、who all friend を定期的にやりながら観察していると、居ないときがない。24 時間体制になってしまい、割り込むすきもなくなった。

 R 某はそれから実に一ヶ月ものあいだ、ここで NO LIFE をすることになる。

 そこで、つい考えてしまう。

〝キャンプに if はない〟とは云うが (誰) もしも私があのまま 24 時間体制でキャンプしていたとしたら、きっとやつと同じ目にあっていたことだろう。

 これ、あかんやつ。

 このキャンプがいかにヤバいかのを人から聞くのと、実際に目にするのとでは、わけが違う。

 そして私は、実際にその被害者をリアルタイムで目撃してしまったのだ。

 忘れたほうが身のためだ。

  

 ……そう、忘れたはずだった。

 あれから 2 ヶ月が経過した、3 月某日。

 クレリックの PoH アーマーが一通り揃い、バンクの整理をしていると、奥の方からあれが出てきた。

壊しておくべきだった、あの呪われた鎌が。

 今思えば、もし私が心の強い人間だったなら、何も考えずにデストロイしていたはずだが、こうしてその錆びた鎌を眺めていると久しぶりにやってみようという気分になってしまう。

 なぜなら、少し前の PoH にて、たった 1 日のうちに LegBP を取ってしまったという幸運が気を大きくさせているからだ。

――あれほどダイスに泣かされてきた私にもとうとう運が向いてきた!

――今の私は無敵! 数回もしたら Undead バージョンなんてのも、湧いたりしちゃったりしてー?!

――いいや、沸かない気がしない!

 などと、いいかげんにしろ状態である。

 さて、不要だとは思うが、では具体的にどういうキャンプなのか、軽く説明してみよう。

 南カラナちほーの北端付近にあるアンデッドの廃墟。このスクリーンショットでは、私は西側に立っていて、東方向を見ている。つまり、左手が北カラナ行きの橋だ。

 この廃墟のほぼ中央にあるヤグラの真下に沸く a putrid skeleton が PH である。

 

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 別の角度からも見てみよう。

 

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 ヤグラがいくつかあるので、最初はどれがターゲットなのか分かりづらい。

 見分け方は、まず上に何も物が置いてないやつ。そして座った (崩れた) putrid がヤグラの足に 1 体、反対側のやや離れた位置に 1 体いる。そして PH がスポーンすると、ヤグラの真下に立ったまま現れる。

 Xo o   ←北

   o o  X  o: ヤグラの足 X: putrid

 これをカランコロンとぶっ殺し、3 時間 12 分間ただ次を待つだけ。

 ここにいるあいだ、たまに蘇生をしたりバフしたりもするが、基本はただ NetflixYoutube など別のことをしている。とにかく、ここにこうして立って、キャンプを主張していればいい。

 3 時間 12 分の Grimrot タイマーは必須だが、tell などにも応答したいので、GINA による音出しは必須になる。

 Live バージョンは鎌を 2 本落とし、Vamperic Curse の Effect: がついている NO DROP のほうがクエストアイテムになる。事故る危険性を排除するため、偽物のほうはすぐに処分。Undead バージョンは夜しか沸かないというのは都市伝説であり、一切関係がないことは GM も認めている。

 だから、沸けば間髪入れずに殺す、それだけだ。

 また、クエスNPC の Camlend Serbold のファクションが warmly になっていないとクエストアイテムを飲まれるという大惨事に見舞われるので、これだけは早めに片付けておいた。

 これは簡単な仕込みだ。彼はキーノスのパラディン GM で、ここに沸く putrid を殺し続けることでファクションを稼ぐことができるが、キーノスの門の外をうろついている Lashun Novashine に 2 ゴールドを渡し続けることで簡単に稼ぐこともできる。

 面倒なのは、クエスNPC のくせに Hail で止めることができない。3 分の Paralyzing Earth は持っていないので、1.6 分の Enstill で足止めしつつ Atone で記憶を消してから渡しまくるのを繰り返した。

 

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 沸かないネームドもそうだが、ある意味では輪をかけて厄介な敵がいる。競合するプレイヤーだ。

 どう付き合えばいいか。

 まず見かけたら friend リストに登録する。クレリックは anon や role を使う人が多いため、遠隔からはわからない。南カラナちほーにサブを埋めておき、何ならレベリングをしながら定期的に who をして消えるのを待つということをしていた。KFC はかなりのレベル幅があるので、そういう目的に使いやすい。

 ダンジョンのキャンプでは、帰る際に PH を見てから触らずに帰るようなことがよく行われている。自分らのキルで次にアタリが湧いたりしたら口惜しいからだ。しかし、このキャンプでは必ず PH を殺してから帰るようにしたほうが合理的だ。本当に誰もいなくならない限りタイマーは継続されるので、次に自分が入るときに推測しやすくなる。

 ここいらで、

獲らぬアンデッドの心臓算用なんてことをしていたのを白状しよう。

 ーードロップ率は 10% か。じゃ 10 回殺せば取れるってことね。

 なんていう事を言う人がたまにいるが、もちろん誤りである。

 ドロップ率を r、試行回数を n とすると、出現率 P は

 P = 1 - (1 - r) ^ n

 となるので、10% を 10 回引いたときに一個以上取れる確率は 65% にしかならない。google 電卓ではこうなる。

 1 - (1 - 0.1) ^10

 こういう勘違いは〝ガチャ〟という言葉にも問題があるんじゃなかろうか。

 語源ともなっている物理的なガチャガチャのほうではその認識で正しい。試行するごとに玉が減っていき、つまりレート r がどんどん上がっていくし、どんなに運がなくても全数引けば 100% 当たる。しかし、ソシャゲやスマホゲーにおけるガチャではアイテムはデータベースから無限個数コピーできるので、そんなことは起きない。

 さて、Undead バージョンの P は 2% と言われているので、10 回 (32 時間) スポーンを見たとき、1 回以上湧く確率は 18% になる。

 1 - (1 - 0.02) ^ 10

 出現率 P から施行回数 n がほしい場合は対数を使う。

 n = log (1 - P) / log (1 - r)

 運が五分五分の 50% だと、34 回つまり 4.5 日かかる。

 log (1 - 0.5) / log (1 - 0.02)

 運に頼らなくてもいい率 95% まで引き上げようとすると、148 回、20 日である。

 log (1 - 0.95) / log (1 - 0.02)

 かはっ!

 ……いや、やめておこう、グロい数字しか出てこない。

 実際、この 2% というレートは、あの FBSS に近いのではないか。ただしあっちのスポーンタイマーは 28 分なので、こっちの 192 分の 1/7 ではあるのだが。

 なあに、あっちの地獄よりもたったの 7 倍地獄なだけだ。

 ……

 やっぱこれ、あかんやつ。

 諦めろ。

 でも……

 ここまでキャンプをしてきちゃった……

 いわゆる〝引き返せないところまで来てしまっている症候群〟だ。

 こう思ってしまう人はギャンブルはしちゃいけない。なぜなら、

取り戻せないものに価値はないからだ。

 客観的に見れば、これまで投じてきた時間は〝無価値〟である。

 これは投資やギャンブルでよく引用される。お金や時間などで取り戻せないものをあたかも取り戻せるものとして非合理的な行動をする心理的傾向に陥ることが多い。経済学で サンクコスト効果 という名前までついてやがる。

 それによれば、この場合私がとるべき最も合理的な選択は、鎌をデストロイしてやめることである。

 どの時点に関わらず、それが合理的な選択とされている。なぜなら、私が何回 PH をぶっ殺していようと次に何が湧くかには一切影響しないからだ。何なら 20 回 PH をぶっ殺している私と今着たばかりの他人とでは、次のチャンスは全く同じである。

 そんなこんなを考えながら、湧いた PH を片付ける。

 これから 3 時間……

 次に湧くのもどうせ PH なんだろうよ……

 いいや、でも、もしかすると次こそは……

 そんな愚にもつかないことを考えながら、これを書いている。

「カランコロン」 という骨の音、これが自分の中で何かが壊れていく音に聞こえてくる。

 私と一週間ほどキャンプ争いをしてきた、今度は別のハーフリング・クレリック〝B 某〟。とうとうしびれを切らしたのか、スイッチが入ってしまったらしい。それから 24 時間体制に突入し、またもや私が入り込むスキがなくなってしまった。

 それにしても、R 某といい B 某といい、し烈な who all 合戦からのキャンプ取りをしていた相手は、早晩 24 時間体制に突入してしまい、結果私がサスペンドを食らう羽目になっている。

 え、いや、あの、お前らね、

私は君らのスイッチをオンにする係じゃないんだが?

 私は仕事もあるし、ちゃんと寝たいし、24 時間体制のプープソック・おしっこボトラーズなノーライフなどできないししたくもない。いや、この圧倒的に暇なキャンプでそんなことをする必要は実際にはないのだが、少なくとも 3 時間おきに起きなければならないのは確かだ。

 だからその間というもの、私はただひたすら相手を who all しつつ、サブのメージをレベリングする日々を送っていた。

 それから実に 3 週間は経過しただろうか。

 あの B 某は、ようやくキャンプをしなくなった。

 取れたかどうか、怖すぎて聞けない。いいや、怖いもの見たさで、今度トンネルでしれっと inspect してみよう、もちろんサブキャラで。そして私の Aegis のアイテムリンクを添えて、

――あれ、まだ取ってなかったの?

 ……なーんて、するわけねえだろ!

 まったく、某ギルドの某クソクレリックじゃないんだし。

 いやほんと、今思えばとんでもない輩だったんだな。あの頃は PH を数回しかやってないような私だったからネタにもできるレベルで済んでいる。あれがもし、数週間ぼうずの B 某とかだったりしたら、精神系 DD だ。

 私の正直な気持ちは、彼女が取れたと思いたい。

 一人でも競合が減れば私の利益になるという台所事情もあるが、取れるという事実が希望にもなる。

 

 今のところ私は 21 回中 Live 版を 1 回、PH を 20 回見て止まっている。

 67 時間しか失われていないから、まだまだ傷は浅い。

 スイッチが入っちゃう人が多いので、サブキャラのレベリングも順調でいいことづくめだ。その調子で彼らにはキャンプを続けて欲しい。

 彼らが全員戦死してしまうと、私の戦死が回ってきてしまう。

 そして、私がまだ名残惜しく鎌をバンクにしまっていたなら、頼むから殺してくれ。

 

 

それでは、ハッピー RNGesus のおっさん出てこいごるあ!

 

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呼んだか?