その 1 ~準備編~ はこちら
憤怒の炎 -- Ragefire
Zordak Ragefire、たいそうな名前のわりには rage、RF、lazyfire、アイツ、ひげ、おっさん、シャイボーイなどの愛称で呼ばれている、見た目はただのちょい悪おやじ風ヒューマンである。
Sol-B の最深部 (#19) は Nagafen の巣のど真ん中に突っ立っており、右クリすると
「このフェニン・ロー様の油などはいかがですか?」
などと能天気に押し売りしてくるベンダー NPC である。
「いいや、ちょっとまて。あんたの鼻先にはネームドの FG が行ったり来たりしているような場所だぞ。そんなバカみたいなとこでいったいどこの誰と商売しとるのかチミは」
そういうツッコミは無粋。実は、このおっさんが本エピックの核心人物である。いいや、本エピック全体の労力の 98% を、このおっさんの出勤時間と遅刻癖が占めている。
おかげ様で私は未だに仕事で使うドキュメントで
「この RF (無線) モジュールはーー」
とかいう文脈に出くわすたびに〝ぴくっ〟と精神の揺らぎが検知されるほどの恐るべき呪詛として頭蓋の裏側に烙印されている。いいや、この時期にこの道を通ったすべてのクレリックは心のうちにその人なりの〝憤怒の炎〟を宿したことに違いない。
常時多くのクレリックがこんな場所で虎視眈々と Ragefire を狙っていて、このキャンプに設定されたサーバールールに従っている。ヤツが湧いた瞬間に /random 1000 でサイコロを振って勝った者が真珠を turn-in する権利を得るというものだ。
それは、我がギルドのクレリック Azumino メンバー、Shin ちゃん、私、この紫三人衆がそれぞれのスケジュールで RF のキャンプするようになって一週間ぐらいが経過した頃だった。
土曜日の午前 11 時に Azu さんが入った。ロールに負けてもいいから、一度ぐらいはどのような流れになるのか最後まで見たいね、という話から私も土曜日の夕方に参戦し、お互い限界がきたら仮眠をしつつ最後まで見届けようという流れになった。
今から思えば、この頃の我々は自分の乏しい経験から大部分を想像するしかないという有様だった。右も左もわからず、ただ GM が定めた欠陥だらけのキャンプルールを前に、漠然とした不安の中で牢獄に正座させられていた。
やがて北米やヨーロッパの人々が三々五々と減っていき、深夜から早朝にかけてまた増え、最盛期は 15 人まで膨らむ。そして日曜の夕方からまた漸減していくというのはお馴染みの流れ。
そうして、午後 7 時ごろ。
私も Azu さんも仮眠を挟んではいたが、すでにキャンプをはじめて 24 時間をまわっており、いい加減に消耗はしていたものの、我々二人の他には大手ギルドのレベル 46 のクレリック。たったの三名しかいない。
しかしまさにその時、視界に違和感を感じた。
目をこすってよく見ると、中央に変な赤いおっさん。
こ、こいつは…… 2/3 の確率で俺たちのものじゃないか。しかも、午後 7 時だからギルメンを集めるにはこれ以上ないほどのタイミング。負けるわけにはいくまいよ、ええ、そうだろう!?
入魂 /random 1000 !!
え、私のダイス、よわすぎ……?
かーーらーーのーー Azu さんの 600 はいりました! そして他人のもう一人が振り、Azumino メンバー本エピック最大の難関を突破!
我々は RF をぶっ殺せるのか?!
サーバールールどおり 30 分以内に会敵できるのか?!
続きはこの動画。
自分が負けたにも関わらず Azu さんが相手だと自分のことのようにうれしくなってしまうのは人徳なんだろうと思う。この人が取ったらギルドのプラスになるのは間違いないのだ。
我がギルドでも、まぁ結構ギリギリではあったが達成できたのもうれしかった。流れを完全に掴んでクリアになったことも精神的な支えになった。漠然とした不安が払しょくされたことで、モチベーションは最高潮となる。これは私も近いうちに取れるのでは? と、そういう手ごたえが得られたのも無理からぬものだ。
Sol-B の最深部、Nagafen の巣
ここで Sol-B の Nagafen の巣 (Lair) がどのような場所なのか、The Jail までの行き方とともに、囚人どもが編み出した通称〝DA bomb〟と名付けられた手法を紹介しよう。
一般的には Lava Storm から入るほうが〝表の入口〟で、コボルドどもが巣くっている。それが北側、このマップでは下側であり、関係がないので省略。コボルド側から入るとスポーンが多くて面倒なので、Sol-A につながっている Guano ゾーンラインから入る。
Team LDC として Guano 回廊を 部室として使っていた我々 からすれば、むしろこちらのほうが 正門 であるのだが。
まず、Fire Giant がフルポップ状態でどうやってソロで自首するか? こういう手法を The Jail で聞いても、誰もが渋い顔だ。顔なじみになってようやく断片が見えてくる。
あらかじめ EQScout で予習。DB は必須だが DA も予備としてアップさせておく。またゾーンする前に SoW を更新する。複数の FG に囲まれていると Gate はほぼ出来ないと思ったほうがいいので、Leatherfoot Raider Skullcap を保険として用意。
LDC エリアを pacify で抜けて溶岩まで来たら Levi をする。上陸する前に一つ目のローマーが玄関 2 ポップ部屋に入るまで待つ。入ったら溶岩上を走り、坂の上にある橋の下をくぐる。High Elf だとダックしないとくぐれない。すぐ先の角の手前で二つ目のローマーが向こう側に入るのを待つ。
入ったら CE を自分にかけてから跳ね橋の 2 ポップを Immobilize 等の長い root で足止めし、4 ポップ手前でローマーを root。FG は belly caster と呼ばれるタイプのモブで、メレーレンジからでないとスペルが 100% レジストする。つまり root は殴られながらキャストすることになる。
DB をかけてから 4 ポップとラスト 2 ポップをトレインしつつ、スタンなどで足止めされたら DA も使って Jail ♨ 真裏の溶岩の中の角 👼 で死ぬ。
この溶岩の袋小路は Jail の角から /corpse で壁を貫通して死体を引き上げられるので、顔なじみになった同房者に頼んで蘇生をしてもらう。
運悪くスタンではめられたりして到達できなかった場合は、モンク様などに CR をお願いする。その際、4 ポップ手前の廊下まで持ってくれば Guano ゾーンラインから /target、/corpse でワープできるので、FDer の負担を若干減らせる。
ーーこの監獄に入所するにはまず処刑されなければならない
なんてシュールな方法が通用するのも、そこにいる者全員がクレリックという普通有り得ないシチュエーションならではである。
閑話休題、思えば 23 年前のここは特別な場所だった。
なにしろ世界に三体しかいないレイドボスの一角に会えるのだ。Naggy 様相手に 50 人以上がお祭り騒ぎである。
その頃はどこでもバインドできたので、死んだら 4 ポップ部屋の角に全裸で出る。もちろんまだ戦闘中だから、fear で飛ばされた人々がドクロの煙を巻き上げながら逆向きに走っていく、その fear 盆踊りのさ中を搔い潜って自分の死体をここに運び、装備だけ拾ったら盆踊りをしながら前線に戻る。全員が LoM なのでバフをもらえたらラッキーである。
危ない場所で死ぬと /consent 誰それとして他の人に死体を運んでもらうというのは今では当たり前なのだが、この時代の /consent は NO DROP 以外の装備を全部 loot できるというエグい仕様だった。友達の死体を運んでいる途中に指が滑って右クリしてしまい、ちゃりーん……
「あ、ごめん! お金拾っちゃった」
みたいな事故は普通にあった。カバンまで拾えるのだからサギにでもあえば根こそぎである。いくらなんでも危なすぎて、よほど信用できる相手でないと使えなかった。
壁を使って AoE をイベードするようなタクティクスも発明されていなかったので、ほぼ全員が AoE をまともに食らっていたし、我々ヒーラーも常時 LoM 状態の戦闘だった。
この頃の私の通信環境は、月 38,000 円()の OCN エコノミーという 128kbps()専用線と、気合だけは充分だ。そこまでやならいまでも、日本人の多くは ISDN (64kbps) に移行していた。一方北米の友人はほぼアナログモデムだから良くて V34 (33.6kbps)。PC もビデオカードもショボい上に回線に至っては蜘蛛の糸かくやという有様で、今の 1Gbps と比べてしまうと一万分の一もない。なのにダメージなどの全コンバットログがレイド全員の細すぎる回線に流れ込んできていたので、この程度の人数でもパケット詰まりをおこし、ものすごくラグかった。サーバー側でフィルターをするという当たり前の機能がこの頃はまだ実装されてなかったのだ。
だから、レイドリーダーはレイドをいくつかのウェーブにアサインし、2nd wave 行け! 1st の CR 開始! みたいな方法で回線ラグを回避していた。当時は VC もなくチャットも 11 行しかないゴミ 古き良き時代だったので、最後は散り散りになり各個撃破でワイプしていた。
とはいえ当時はアグロが切れても今みたいに tick 5% みたいな超回復が導入されていないから、ワイプしたところで
「残り 50% 頑張るぞ!」
「おおー!!」
みたいに仕切りなおしが可能だった。今で言うところの〝ゾンビアタック〟が当たり前だった。
あの頃はレベルキャップが 50 で、もちろん 50 になっていない人も多かったし、プレインすらまだオープンしていなかったから装備なんてゴミ同然だった。私は Mith BP と Silver-Plated Leggings だった気がする。レイドになると Mithril-Runed Tunic と Gatorscale Leggings という出で立ちで現れる先輩クレリックのマロ・血まみれ様がたまらなくカッコよくて、それをまんま猿真似しだすと、周囲から
「Kelethin にうろついてるようなド noob が紛れ込んどるぞ!」
などと言われたものだ。とにかく Wisdom を上げることに精一杯で RM や RF を上げるという発想すらなかった。
メージのマナ棒もまだなかったので、戦闘が終わったら死屍累々の corpse を相手にクレリックとバードで構成された蘇生グループが後片付けをした。90% バックを持っているクレリックも少なかったので、レベル 50 にもどせない人も多くいた。
そういえば、私の初めてのレイド体験は Dojojo おじさん だったし、あれはハロウィンイベントだっただろうか、GM 操作の喋る King Tranix のレイドもやったり。P99 ではぷりん君や TCP 君とレベル 51 ~ 60 をクモだけで稼いでみたり、とにかくこのゾーンの思い出は悲喜こもごもである。
RF タクティクス
さて、RF のタイマーは二本あることが知られている。
基本的には前回 RF が殺されてから 16 ~ 32 時間。
また、Nagafen がいる間 RF は湧かないが、殺されてから 3 日以内に湧くという単体のタイマーもある。Nagafen のリスポーンは 7 日なので、つまり週一のタイマーになる。実はこっちがオリジナルのタイマーであり、一日ごとに湧くほうは〝あまりにも酷い〟ということであとから増設されたものだった。
多くの大手ギルドは Nagafen や RF の ToD (Time of Death) をギルド内で共有しているらしいのだが、我々には知るすべがない。
結局確実なのは、前回のスポーンを自分で見るしかない。
RF が殺されてから 16 時間が経過するまではそもそも湧く〝window〟にすら入っていないから、キャンプするだけ無駄である。現地に誰もいない場合は window 外の可能性が高い。とはいえ、100% 無駄なのかと言われるとそうとも言い切れない。Nagafen が殺されてからは 3 日以内とはいえ、いつ湧いてもおかしくない状態とも言えるからだ。
タクティクス自体は単純なので前述の動画を見ればわかるとは思う。ここではテキストで補完しておく。
RF には 3 つの形態がある。湧いた直後の Zordak Ragefire は形態 #1。
ベンダー NPC である。これほど苦労して会えたのに、ツナレ教の High Elf クレリックの私は右クリしても
「消えろ」
とつれない。エンチャンターのカルチャー JC で使う素材を作るスペル (Wizard 用) を売っていたりする。信仰によっては買えたりするのだろうか?
この RF #1 に Pearl を渡すと、人間の姿のままだが KoS になったバージョンの RF 形態 #2 が後ろに湧く。
KoS になるといっても、トレード範囲ギリギリで渡してすぐ離れるとアグロせずに済む。湧いた直後のモブは数秒のボディーアグロの猶予があるので、それが働いているのだろう。
この RF 形態 #2 は弱いので特に注意はない。これを殺すと Nagafen と同じ見た目のドラゴン Zordakalicus Ragefire 形態 #3 が中央に湧く。こいつが本番である。
このドラゴンはレイドターゲットとして難しいものではないが、失敗は許されないので全員がレベル 60 あるいはそれに近い人の 2 グループ以上はほしい。これは Kunark era の話なので、Velious 装備があればもっと少人数でもやれる気はする。
我々の実績だと、Kunark era で最小 10 人だった。
全員 Walk モードに切り替えて SoW / Jboots も切る。これで AoE fear を食らっても遠くまで走り去ることを防げる。
ファイアー属性の AoE 500 ダメージには CM がついている。それとマジック属性の AoE fear もある。頻繁に CM されるので、タンクとメレー DPS は先頭 8 スロットは捨てバフであらかじめ埋めておく。
RM と RF が核心になるので、理想的なのはエンチャンターの GRM (RM+55)、ドルイドの Circle of Winter (RF+45) だが、なければショボいものでもいい。とにかく CM を食らいまくるのでスロット 9 ~ 14 にこれらを入れておく。最後の 15 はクレリックの CE のために空けておいてほしい。
MT は左側の壁を背にしてタンク、メレー DPS は真後ろから殴る。モンクは適宜武器をはずして拳で壁方向に押し込む操作を行う。
ベリーキャスターなので、キャスターはメレーレンジまで行かないと何のスペルも入らない。
キャスターやヒーラーは壁の裏側にあたる橋の上の左側で AoE を回避する。ヒールが欲しい人もここに逃げ込む。結構狭くて溶岩にドボンする人もいるので、全員 Levi はあったほうがいいだろう。
タンクヒールについては、ダメージはそれほど痛くないので CCH は不要。メレー DPS は fear でヒールのレンジ外になることが多く、気が付くと結構減っていて戦闘に戻れなくなるので、早めのヒールが望ましい。
サブタンクはいるに越したことはないが、それほど痛くないのでモンクでも問題ない。とにかく fear で MT が飛ばされた場合すぐタンクを肩代わりできる体制になっていないと、暴れだしてキャスターやヒーラーがいる安全地帯に AoE が届いてしまい、とてもまずいことになる。
ネクロペットのスペクターは fear 耐性を持っているので重要だ。またメージペットも Velious だと Valiant Companion バフで fear 耐性を得られる。とにかく fear で MT が飛んだ時のためにメレー DPS は多いほうがいい。
エンチャンターのチャームペットは MR を上げてしまうとすぐにチャームブレークしてしまうため fear を喰らいっぱなしになるし、DPS は全く稼げない。そればかりかチャームが簡単にディスペルされるため、ヒーラーたちが LDC に絡まれるような場面もあった。Zumaik + RM のほうがいいだろう。
さて、普通の攻略モノであれば、ここまでで記事は終了だ。
次の章では〝私がいかに不運だったか〟を恨み節とともに語る全俺が泣いたコーナー エバークエストの真理を語ろう。
その 3 ~呪詛編~ に続く