クレリックエピック その 3 ~呪詛編~

 

 その 1 ~準備編~

 その 2 ~憤怒の炎編~

 

 

 これは、ある日の 獄中の風景 である。

 

 我々囚人は、入所時に持ち込んだ食い物なんてとうに食い尽くしている。

 だから、ログインすると焦げパン、通称〝くさいめしを空中から召喚する。この

「ガイン……ガイン……ガイン……」

 という音はつまり、競合が増えたときに聞こえてくる 陰鬱な音 として認識されている。

 さらに研鑽を積んだクレリックは、その人物が今日何時間ここに居座るつもりなのかをキャスト回数で推測できるようになる。

 そんな我々であれ、ある一点に於いて合意はしている。

 つまり、

―― no more cleric

 

 待てど暮らせど顔を出さない Ragefire、このおっさんには言いたいことが山ほどあるが問題は二つ。

長すぎるリスポーンと無慈悲なサーバールール

 である。

 わかっていたことではあるが、16 ~ 32 時間のリスポーンタイマーというものに実際に直面してみると、こいつは なかなかのエバークエスト体験 である。その上、最大 16 時間もの幅があるので、何もせずぼーっと湧くのを待たなければならないのは 完全なるエバークエスト体験 である。

 20 年前のあの頃を思い返すと、あのころ私が取れたのはたまたま運が良かったのだろう。というのも、私がとった時代のタイマーは三日のほうしか無かったからだ。

 私はラクリンの酷いニューグラに落胆して EQ をやめた手合なので知らなかったのだが、ラクリンのリリースから数カ月後に 24 時間毎のリスポーンが追加された。それでも状況は改善されず、とうとうあの伝説の BBC 報道 に至り、Ragefire の不良社会人っぷり、いいや S●E の非人道的なゲームデザインが全世界の衆目に触れることになる。

 

 

 そして、ここからはあくまでも妄想だが、S●ny のえらーい人から

「わが社の製品が BBC で報道されていますがこれは一体どういうことですか」

 的なデスタッチが dev に着弾、大慌てで修正する気になったのかもしれない。二ヶ月後に Skyfire への移設、つまり 現在のバージョン に根本的に書き直されてからは、かなり楽になったらしい。

  • 1999年 3月 - EverQuest リリース
  • 2000年 4月 - RoK リリース
  • 2000年 9月 - エピック導入
  • 2000年 12月 - SoV リリース
  • 2001年 12月 - SoL リリース
  • 2002年 2月 - リスポーンを 24 時間毎に変更
  • 2002年 7月 - Ragefire、BBC世界デビュー
  • 2002年 9月 - Skyfire に移設

 

 基本無料になった今とは異なり当時は月額課金のサービスだったから、長い時間遊んでもらうことは彼らのビジネスである。だからリスポーン時間を長く設定してコンテンツの消費速度を抑制することは論理的には正しい。だが程度というものがある。ほとんどのエピックの設計は常軌を逸したものだった。

 他のクラスはともかく、クレリックの人口の多さを完全に舐めている。

 その上、P99 のように全員に情報がいきわたった状態からのスタートだと、この SS のようになる。エピック導入から三か月が経ってコレなのだから、当初はもっと酷かったに違いない。

 成熟したサーバである Blue では湧きっぱなしで放置されていることも珍しくないらしいから、Green サーバーでもそのうち簡単に会えるようになるのかもしれないが、導入直後は壮絶である。

 

 次に、無慈悲なサーバールール の存在。

 RF が湧くと、準備で作った Shimmering Pearl を渡すことになるのだが。

 全員が湧き待ち・湧いた瞬間にトレードウィンドウを開くバトル……という、まったくお寒い状況が目に浮かぶ。そして

「俺が渡した」

「いいや俺だ」

 という揉め事から、ドラゴンを挟んでギルド間が KS 合戦を繰り広げるなんて想像に難くない。

 もともとそうした紛争を防ぐため、P99 のレイドボスには FTE という、当時にはなかった仕組みが実装されている。最初に aggro を取ったプレイヤーはゾーンワイドのエンゲージメッセージが流れ、そのグループに loot 権が与えられる。

 しかし、RF のように〝アイテムを渡してから戦闘が始まる〟類のものにこの仕組みは機能しない。そこで、例外としてサーバールールが設定されている。

 下記は RF の サーバールール を訳したもので、( ) 内は私のコメント。

  • (紛争の防止)
    • Zordak Ragefire が湧いたら 20 秒以内に /random 1000 のダイスを振ること。
  • (MQ の防止)
  • (スポーン回転の維持)
    • ダイスに勝ったクレリックすぐに Pearl を渡す こと。
    • ダイスから 30 分間 エンゲージ (戦闘開始) の猶予がある。
    • もし 30 分以内にエンゲージできなかった場合は Zordakalicus は FTE とする。(FTE = 早いもの勝ち)
  • このルールは P99 スタッフが解除するまで無期限で有効とする。

 

 Blue サーバーだとこのエピックは 50k 前後で MQ 売りが行われている。

 このルールの趣旨は、そういった MQ 販売によるエピックの荒廃を防ぎつつ、30 分以内の会敵後は FTE とするなど回転も維持させている。

 P99 のこの手のレイドボスは、no life・poop sock 上等な大手のレイドギルドが独占するのが常である。だからこのルールの存在を知った当初は、どんなクレリックにも平等に機会が与えられるのだから、むしろ歓迎すべきものではないかと素直に思ったものだが……。

 キャンプをはじめてみると、なかなかの無慈悲なものであることを思い知る。

 /random ができる時間は 湧いてから 20 秒間 しか許されていないから、画面から目が離せない。これがとても辛い。

 しかし、本当の問題はそうした些末な部分ではなかった。

 運よく勝った人は即座に Pearl を RF に渡さなければならず、三十分以内に会敵しなければ FTE つまり早い者勝ちになり、他人に取られても文句は言えなくなる。しかもサイコロ勝負には一度勝っているので二度と振れない。

 私は次第に、実はここが最大の壁なんじゃないかと思うようになった。

 というのは、ギルメンがオンラインの時間帯がそれほど広くないからだ。

 普通のギルドだったら自然と多国籍になるので、北米のタイムゾーンに偏るものの、いつでも誰かがオンラインであるのが普通だが、我がギルド Akatsuki はほとんど日本人で構成されているため、タイムゾーンが一本しかない。だから、18 ~ 24 時以外は戦力が揃わないのでダイスを振ると危険だ。勝ったクレリックは必ず Pearl を渡さなければならないというルールがあるため、人員が確保できない時間帯で勝ってしまうと苦労して作った Pearl だけを失い、何も得られなくなる。

 折角みんなに手伝ってもらって作ったものを失うわけにはいかないし、その上二度と参加できなくなるので、これだけは避けなければならない。

 18 ~ 24 時しかレイドフォースを用意できないことは最初からわかっていたことだ。

 普通の精神状態だったなら、

ーー今エピックを取る必要があるのか?

 とソモソモ論にまで立ち返るのが論理的な思考だろう。しかし、そうはならない。この記事 にも書いたように、私は見事に サンクコスト効果の罠 にはまっていた。

 すでに投入した時間の意味を考えてしまう状態のことだ。

 サンクコスト効果から導かれる論理的な解は、今すぐやめることである。

 実際には、過ぎた時間には何の価値もない。

 私がこれまで何時間費やしていようと、次に振るダイスにその時間の量が何か影響を与えることは全くない。

 戦力を持たずに振るわけにはいかないため、私もログアウトするなり、メージに切り替えて残業をするようにしていたのだが、これだとダイスそのものが数日に一回程度しか振れず、多くは振りもせずにログアウトするという日々を送った。

 しかも、今日のキャンプは終わりにしよう、友達が死んだから蘇生するためにゲートアウトしよう、気分を変えるためにどこどこへ行こう……などと、すんなりここから脱出することも出来ない。

 再度ここに戻るには仲間にお願いをして FG を掃除して貰わなければならないからだ。それに、FG を掃除してしまうと向こう 8 時間はここにアクセスしやすくなる、つまり競合するクレリックを増やす結果になるので、できれば FG は湧いたままのほうがいいという台所事情もある。

 だから、多くのクレリックはここでただログインとログアウトを繰り返している。

 

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 おわかりだろう、多くのクレリックがここをThe Jailと呼ぶわけが。

壊れるダイス

 初っ端の Azumino メンバーの成功体験があったため、私も近いうちに取れるだろうとタカを括っていた節は、確かにあった。

 それから 1 ヶ月ものあいだ、私は延々とこの牢獄に閉じこめられ、自分のダイス運の悪さにはほとほと辟易する羽目になる。私はダイス勝負に負け続け、1 on 1 という状況でも二度も負けるという失態を演じる。

 

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 Nuva くんはいいやつだしギアードなのでまだいい。彼はこのあとも気になっていたようで、

「ダイスの調子はどうだい、bro」

 と時折 tell をくれていた。

 どのクレリックにも同等の権利があるというのは建前で、心情はまた別だ。

 いいや、彼のようにある程度完成されたキャラが持っていくのは、もうここまで来てしまうと平気になった。自分が負けたという悔しさは勿論あるが同時にここでできた友達が持っていくのも嬉しい。一人減れば自分の可能性も多少は上がると前向きに考えることもできる。

 しかし、数日のパワーレベリングで作ってきたような レベル 46 のちんちくりん促成栽培キャラ が RF の心臓をもぎ取っていく光景には、ほとほと暗澹たる気分にさせられる。

 そういう連中は 捨てキャラ である。

 メインのクレリックに MQ するキャラとしてここに埋めているだけだ。

 サーバールールは守っている、それは事実なのだがこうなると需要は一向に減らず、ダイス運が悪い自分はもう永久に取れないのではないかとさえ思えてくる。

 

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 これは促成栽培のちんちくりんのいない、全員が紫の常連だった。そういう中でダイスが振れただけでも気持ちいい勝負だ。

 この時に勝った Iyashi さんの 動画 を見つけた。この人の別キャラのドルイド Chai たんとは一緒に PoF レイドをしたことがあって、こういうノリの日本語も可能w

 

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 それにしても、私に負けず劣らず Shin ちゃんもなかなか gokuri なダイスである。


 むしろここまでくると あっぱれ といいたくなる勝負もあった。

 

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 999 なんて尋常ではない目が投下されてクレリック全員が MGB Spin Stun を食らって泡を吹いている。しかも自分はといえばダントツの最下位で、その夜は気持ちよく眠れた。

サイコロは神聖なものだ。

 それはわかっているのだが、一事が万事こんな調子でほんとーにお話にならない。弱いゾーンに入ったヤツはとことんその弱さを引きずってしまうらしい。システム的に何らかの偏りがあるのでは……そう勘ぐってしまうほどだ。

「一か月もかかったぜ……」

 そう言いながら Pearl を渡す人に

「君は運がいい……私はもうここに 2 か月も囚われている」

 と長老風を吹かせる人もいるが、この Iyashi さんなんてエピックが導入されてからずっとやっていたそうな。上には上がいる。

ナガフェン・スーパーマックスの獄長。そうやつの名はマギ

 ところで、この牢獄は 100% 安全というわけではない。

 Magi Rokyl 通称〝獄長〟は、頭痛の種である。

 named の Fire Giant、レベル 51、HP 10k は我々囚人たちを常に虐待してくるとんでもない輩だ。そもそも、こんなとんでもない場所をボトルネックに設定する S●E は超エバークエスト級の底意地の悪さを発揮している。

 他の FG と同様 8 時間リスポーンタイマーを持っているので、何も考えずに Nekomimi でログインしてしまったら最後、自分ひとりだけで獄長とにらみ合いみたいなことも日常である。

 一度ダメもとでソロをしてみたが、よくやれても 1/3 程度を削って終わる。

 

 

 そういう時は中央の柱の裏に root してから反対側の影で /camp、別キャラで救援を要請するハメに。

 

 

 FG はどれもベリーキャスター (belly caster) という能力を持っていて、メレーレンジからでないとスペルが 100% レジストする。つまり root で固めるにせよ DD するにせよ、キャスト中は殴られ放題だ。我々の DD は燃費が悪く、自己ヒールもあってすぐに OOM になる。一度ものは試しと、pacifyatone コンボというクレリック伝統芸能を殴られながら OOM になるまでやってみるものの、そもそも pacify がレジストして使えない。giant 族は色んな特殊技能を持っているので、もしかすると calm ラインも immune なのかもしれない。

 そこで、私の日課はこんなかんじになった。

 まずメージでログインする。何かとロクでもない使われ方をしている不憫なキャラ長門有希は Sol-B の Guano ゾーンラインに埋めてある。そこでペットを出してペットトラッキングを実行。

 マクロには獄長殿、そして まぁあり得ないが念のためのオッサン を書いてある。

/pause 2, /pet attack magi_rokyl

/pause 2, /pet attack zordak_ragefire

/pet back

 この〝念のため〟が後にとんでもない結果を生みだしてしまうことを、この時の私はまだ知らない。

 それはさておき、Magi に反応があったら仲間に救援要請を出す。大方は Leaf 先生で、Rafuresia (ぷりん君) とか

 

 

  Heihatirou (なすちゃん) が手伝ってくれることもあった。

 

 

 FG はインビジはおろかスニークも見破るから、FD 以外にすり抜ける術はない。また、モンクや SK は私とデュオで Magi を殺せるというのもある。獄長のくせに逃げ出すので root は必須だ。

 そんなある時、気づいたことがあった。

 Leaf さんに頼むとやたらと到着が早い。後で知ったことだが、毎回、緊急脱出用の帽子 Leatherfoot Raider Skullcap をクリックして WC に飛んでいたそうな。この帽子、リチャージに 200p はするなんて代物だ。これにはさすがに泣きそうになった。

 モンクの鏡のような漢である。

 

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 そんな我々囚人もただぼーっとここに座って素直に 受刑 しているわけではない。

 クレリックだけで獄長に逆襲することもあった。実際、クレリックが 3 人以上いれば全員で囲んで root しながら DD、誰かが死にそうになったら離脱して自己ヒールの繰り返し、誰かが死んでも何事もなかったかのように蘇生w してなんとかなったりする。

 

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 しかし、毎回そううまく事は運ばない。

 この場所にログインしてくる奴らは開口

「whats tod on magi?  (Magi はいつ死んだ?)」

 と聞いてくる。そうして、そろそろ湧く時刻に近づいてきて、さぁバフでもするかとふりむけば そいついねーし!

 湧く時刻だけ聞いてギリギリでドロン。

囚人のジレンマの顕著な例だ。これは、

ーーお互い協力する方が協力しないよりもよい結果になることが分かっていても、協力しない者が利益を得る状況では互いに協力しなくなる

 という社会的ジレンマとして知られている。そういや我々は囚人という 設定 なのだった。これも roleplay の一種、よかろう!!

 私は自分のために獄長をぶっころす!!!

 さて Leaf 先生お時間で〜す

 と日本時間に湧く獄長には大方 Leaf 先生がケリを入れていた。ToD (Time of Death) を知っているのも私だったから、ログインしてくる連中は私に聞いてくるし、そうでない場合も私がドヤ顔で教えることが多かった。

 そういう事を繰り返していると、自然と名前を覚えられるらしい。

 しばらく見ていなかった同房者がログインしてくるなり、

「ちょっとまて Neko お前まだいたのか」

「その言葉をそっくりそのまま返すぜ bro」

 などという会話をしていると、方々からお決まりの自虐ネタが始まる。

「こんな場所で会うなんて奇遇だなぁ bro」

「しばらく見ないあいだに、この溶岩サウナで痩せたんじゃないか?」

「お前の母ちゃんも連れてこいよ」

ごきげんよう、ザ・ソックの時間だ。さぁ、今週のエピソードは……壁を見つめる! どうだい、いい壁だろう?」

「わあああああ! お前らのそのコントを見るのはもううんざりだ!!」

「頼む……次ここに俺が座っていたら、そこの溶岩に投げ込んでくれ……」

 私と同じでダイスに泣かされているかわいそうな連中。傷を舐めあい溜飲を下げるというもう本当に酷い図式 こんな局地戦のたこつぼの中で互いに励ましあう戦友たちであった。

そろそろ諦めようか、と思ったその時

 これはもう、そろそろなんとかしないと、私が壊れてしまう。なけなしの全財産 60k プラチナを支払ったら、どこか助けてくれるギルドはないだろうか……なんてことまで考えていた時、ある人物から tell がきた。

 Savasan。たまに tell で会話する 60 エンチャンターである。

「何してるの?」

 と聞かれたので RF と答えると、驚愕の返事が……。

「昨日エピックを取ったので君のも手伝おうか」

 彼との出会いの経緯から考えると、このメッセージは驚くべきことである。

 エピックを取った という部分に、だ。

 

 あれは 2021 年 1 月だから、このイベントから半年ほど遡る。

 クレリック早々に 60 にした 私は、暇なときに Unrest や Cazic などを回って蘇生をしていた。Unrest でさすらいの蘇生爺をしていると、レベル 15 のエンチャンターから tell が入る。すぐ隣のゾーンのカルデラで死んだらしい。

 彼を蘇生して落ち着くと、

「named をキャンプしているけど殺せないから助けてれないか?」

 その named は CHA が上がるアイテムを落とす ネズミ らしい。

 こういうものは〝プレイヤークエスト〟である。

 特にクレリックは絶望の淵から救うことが多いので、プレイヤークエストに半ば巻き込まれることが多いw 私はこういうのが好きなので、素知らぬ顔をしつつも内心は前のめりで応じるようにしている。のだが……。

 問題はその named がなかなか湧かねーw ので、そのあいだに世間話をしていた。ログによれば、エンチャンターのプレイスタイルや上げるべきステータスの話を偉そうに話している私。そうそう、私はショボいながらも Blue サーバーでエンチャンターを 60 まで育てていたから、多少の知識はある。

 一般的にエンチャンターのメインウェポンであるチャームは、わかりやすいためだろうか CHA のみに重点を置かれるが実際は違う。最大の問題はチャームブレークの頻度であり、それを決定しているのはチャームしたいモブのレベルと自分のレベル差、そしてモブの MR である。CHA は初弾の判定に使われているだけだ。

 モブのレベルを知る方法に慣れておくこと、常時 Tash を維持するために厳密なタイマー管理は必要になる。余裕ができたら エンチャンター棒 で GCD リセット の操作を習得すべし、などの話がログに残っていた。

 その時 Sarnak Arcane Fetish といういかにもエンチャンター・レディな INT CHA ネックレスを持っていたので気まぐれで彼にあげたらしい。このアイテムは Peridot を買う時のための CHA ブースターとしてたまたま鞄の中にあったものだ。Chardok で xp をしているとぽろぽろ落とすし、次また拾えばいいや程度のノリだったのだろう。

 P99 ではこうしたその場のノリで貧乏そうな見た目のキャラにアイテムをあげる人がそれなりにいて、そういう文化に慣れてくると自分も誰かにしたくなるものだ。かくいう私も、Blue サーバーで超貧乏なエンチャンターでトンネルラットをしているとき、見ず知らずのギアードな人からこのネックレスをもらったのを覚えている。確かに、したほうは忘れているが、してもらった方は覚えているものなのだな。

 それにしてもエンチャンターのエピックを取ったのは本当にすごい。しかもこの時期に、である。

 Project1999 の事情を知らない人には実感がわかないかもしれないが、特にエンチャンターのエピックはなかなかの代物だ。この世界には存在しないと考える人が多いマジシャンやウォーリアーのようなものがレジェンダリー・クラスとすれば、それらに次ぐカテゴリーだろう。2 日~ 7 日スポーンというエグい ボトルネック がしょっぱなにあるから、クレリックエピックよりも酷い。

 それにもまして、エンチャンターは全クラス中最強の DPS なので、プレイヤー人口はクレリックに比肩する。

 そんなエピックを、1 月に Unrest の虫をやっていたキャラがもう取っているというのは、私のような平凡なプレイヤーにはとても到達できない苦労があっただろう。

 エピックおめでとうという話の流れで、実はタイムゾーンの問題で RF のダイスに参加できる時間帯が限られてるんだという話をすると、彼のギルド Safe Space の GM に話を通してくれた。もしもダイスに勝っても戦力が揃わないときは誰でもいいから tell をくれれば助けるよ、と。

 ヘルプの条件は RF のドラゴン loot だ。私はヤツの心臓をもぎ取ることにしか興味が無いので何の問題もない。

 彼のおかげで、先が見えない暗闇に光明が差した。

 エピックに相応の苦労をした彼だからこそ、私にも気にかけてくれたのかもしれない。

 

 タイムゾーンの問題から解き放たれて、私は自分の体力が許す限りキャンプするようになった。平日は仕事があるので 18 時から翌 4 時頃まで、土日はまるまるだ。そうして、ほぼ隔日でダイスを振れるようになったおかげで、その後すぐ勝ってしまった。

 

 

 Jail 入りしてから実に 一か月目 のことだ。

 時刻は午前 1:30 と、ギルメンはほぼ寝てしまっている。幸運なことに Savasan がオンラインだったので救援要請を出しつつ、Akatsuki の Discord にも念のため @here をしてみた。

 するとどうだろう、もう寝たと思っていた仲間がゾロゾロ布団から這い出てきたw

 Azumino 60 CLR、Ecdhe 57 WIZ (Tcpdump alt)、Leafgray 60 MNK、Rahuresia 58 MNK (Puriin alt)、Skass 54 NEC (Wojiak alt)、Souji 60 WAR、Wayay 60 ENC。

 泣いていいですか、いやまだ続きがある。

 Savasan が集めてくれた Safe Space の人々、Aclorn、Axelis、Babyhuey、Bokan、Cammo、Eluare、Henrietta、Littlethief、Myshkin、Persemony、Raolador、Steni、Tdidar、Tilwens、Tuxman、Versus、Zeel。

 総勢 25 名が私のためにここにいる。

 

 

 レイドを丸ごと要請するようなことなんて初めての経験だったから緊張はしていたが、25 名は完全にオーバーキルであり、そもそもレイド慣れしている彼らには何の不安もなく、キルに関してはもうバフをしている段階でエンディング・テーマが流れている。

 

 

 そして、これほど憎いヤツの心臓をもぎ取ったときの感情は単なるカタルシスと片付けられない、未だに得体のしれない高揚感があった。

 彼らの報酬として出たのは、 あの足 だけだった……w

 手伝ってくれた Safe Space の人々には、ひどいルートで恐縮至極である。

 

 

 こちらが感謝すべき Savasan から、忘れられない言葉をもらった。

「あの時にもらったネックレスをまだ使っているよ。恩返しができてうれしい」

 こういう言葉はなかなか言えるものではない。

 

 

 なぜかこのギルドの何人かからも同じような tell をもらっていたので、彼がギルドチャットで経緯を言っていたようだ。

 

 なかば放心状態で秘密基地に向かう私。

 

 

 Avatar of Water 様から念願のエピックをいただいて、各方面への謝辞のためタイプをしていた時だ。突然 Avatar 様がふんがっふっふー! と咳払いしたかと思うと横にいたはずのぷりん君が 's corpse 付きで寝てる。

 

 

 575 dmg ダブルで食らってチーン。

 まーたあれか……w

「ファーストエピックは俺のもの」

 しょうがにゃいにゃーとエピックをクリック!

 

 思えば、この取組には色んな人に世話になった。

 手伝ってくれた Akatsuki のみんな、特に Leafgray 先生と Azumino メンバー、ぷりんくん、Nasu ちゃん、Savasan と Safe Space の人々、感謝してもしたりない。

 

クレリックは無欲でなければならない。

 そして、次の日。

 クレリックは勿論 The Jail から出所して無事エピックも完成し、いまだに放心状態が続いている自分。

 ぼーっとしていると脳みそを通らずに勝手に手が動く。

 繰り返すが、私のクレリック Nekomimi はもう The Jail にはいない。だから 1 ビットたりとてする理由が無いのに、メージでログインして Guano サイドから Sol-B にゾーン。ペットを召還して Magi をペットトラックするのがもはや習慣になっていて、気が付けばマクロボタンを押していた。

 ところで、私はペットが暴れて意図しないモブに攻撃しないように、安全のためペットが攻撃を開始するモブの名前は都度 GINA で喋らせるようにしている。

 そしてこの時、スピーカーから流れてきた聞きなれない合成音声、

ゾンダーク・レージファイアー。

 この意味をしばらくーーいやほんの数秒のことだったのだろうがーー理解できなかった。

 あの、えっと、

湧いてます……

 しかも、

掃いて捨てるほどいたクレリックが一人もいねえとかどゆこと……

 と、とにかく落ち着け。

 ここからはスラッシュ・エンター! を連打、怒髪天アドレナリンを噴出させながら、このゾーンに競合らしい人物がひとりもいないことを数秒おきに確認しつつ Discord に @here で招集したり、だれにも気取られないように /role するなど素早い動作に我ながら驚く。

 日本時間の午後 8 時はタイムゾーン的に競合が一番少なく、こっちは余裕で人を集めることができる。これ以上無いというほどのチャンスなのだが、危険な状態であることに変わりはない。なんせ、The Jail に誰かがひとりでもログインしてきたらその人物のものになってしまう から、一刻を争う事態である。

 とにかく真珠を持っている Shin ちゃんを現地に送り込み、誰もいない場所で /random 1000 を実行させるのが最優先だ。

 先遣隊を編成して LDC をインビジで抜け、はやる気持ちを抑えながら FG を掃除していき、真珠の turn-in に成功。

 10 人とギリギリではあったが人員も確保でき、ほぼ全員が二度経験していたこともあって、無事にキルできた。

 降ってわいた RF レイドをリードしながら、私の脳裏からどうしても離れなかったのは、あの真理だけーー

 あのゴブリンの尻を三度も見せつけられた末にうそぶいた呪詛のことだ。

 

ーー求めるべからず、さらば与えられん

 

 なお、RF のサーバールールは混雑が緩和してきた 2021 年 10 月末に解除されたらしい。

 Blue サーバーでは、このエピックは 50k 前後のプラチナで MQ 売りが行われており、Green でも一年後には同じような価格になっているかもなぁと推測していた。そして案の定、一年後の 2022 年 5 月頃にはもう 50k で MQ 売りされているのを見かけるようになった。

 もう P99 には全くログインしていないので事情は不明だが、RF が放置されていることも多くなっているかもしれない。

死して屍とおりがかりのクリッキー!

 死んでその日稼いだ経験値を丸ごと持っていかれたプレイヤーは、/who all cleric 56 60 で暇そうなゾーンにいるクレリックを探すだろう。クレリックは一人では本当に何もできないクラスなので、もともと /role や /anon はやらないようにしている。そうすると常に蘇生依頼の tell が来る。

 誰かと遊んでいたりして忙しい場合は断るし、時間があればできるだけ応じるようにしている。

 

 

 Firepot の柱で釣りをしていると

 

 

 目の前に今死んだ人々が湧いてくるので依頼も受けやすい。この状態はいうなればパッシブレッサーだ。そして、どうやらこのクレリックは断らないらしいというのがバレると、そのうち固定客ができる。

 

 

 そのうちの一人 Risu たんはアニメで日本語を勉強している人で、こういう感じの日本語に癒される。

 一方、アクティブレッサーつまりあえて自分の足で蘇生ができる死体を探索するとき〝検死〟は欠かせないテクニックである。

 検死で見るのはまず 蘇生タイマー と、そのタイマーが切れていない場合は 現在ログインしているか どうかを見る。

 死んでからそのアカウントのいずれかのキャラで三時間ログインし続けると蘇生ができない死体になるので、これはすべて無視する。たとえタイマーが残っていても、そのキャラ自身がログインしていないと蘇生は出来ないので、それも無視する。

 これらの条件をクリアーする死体は 全死体の 10% 以下 であり、ほとんどは通りすがりざまに篩い落とすことができる。

 タイマーを見るには、死体をターゲットして C ボタンつまり con をする。それを 1 秒以上おいてから もう一度 C すると、このような見た目になる。

 

This corpse will decay in 6 days, 23 hours, 40 minutes and 39 seconds.
This corpse's resurrection time will expire in 2 hour(s) 40 minute(s) 39 seconds.
This corpse will decay in 6 days, 23 hours, 40 minutes and 37 seconds.
This corpse's resurrection time will expire in 2 hour(s) 40 minute(s) 37 seconds.

 

 このように蘇生タイマーの 秒が進んでいる ということは、そのアカウントのどれかのキャラがオンラインであることを示している。/who all をしてそのキャラ自身がいるかを確認し、死体をターゲットした状態で /tt need res? という tell を飛ばす。

「sure」というそっけないものから

 

 

 という狂喜系w までバリエーションが様々で面白い。

 普段は蘇生する前に必ず tell を飛ばすのだが、例えばこの時なんて残り時間が一分を切っていたので有無を言わさず発射することもある。

 

 

 私は全てのログを残しているので、これまで何回エピックをクリックしたのかふと気になり、ログファイルを grep | wc -l してみた。100 や 200 ではないだろうとは思っていたが、1000 回…… まさかこれほどクリックしていたとは猿か!

 

 

 それでは、クリック・ハッピー・クレリック