時は 1999 年。
インターネットがギークか我々のものだった時代。そこにあるのは、ただ〝Ultima Online〟という夢の残骸だけだった。
そんな時代に彗星のごとく現れた一本のゲームがある。有志が運用しているエミュサーバ〝Project1999〟のスクリーンショットとともに、すこしばかり郷愁に浸っていただければと思う。
これを読んでいるあなたはおそらく、いいや十中八九、かつての冒険者だろう。
そうでもなければ、こんなページにはたどり着かない。
とはいえ、もうかれこれ 20 年近くも前のゲームの話を書こうというのだから、できるだけ平易に書こうと思う。驚くべきことに、このサーバで出会う冒険者たちの話に耳を傾けていると「実は EverQuest はじめてなんだ」なんていう前途多難な将来有望な若者も一定数いるから、わからないものだ。
想像するに、彼らは今どきのヌルいオンゲーにすっかり飽きてしまい、MMO 史の一行でしか見たことがない伝説の世界に足を踏み外してしまったのかもしれない。
さて、当時私はどういう社会生活をしていたのか。
実際、殆ど記憶にない。
とにかく、ここノーラスで無我夢中に生きていた。ゲームのはずなのに、この熱すぎる拷問はいつまで続いてくれるのやら・・・
Google は生まれて間もない、Youtube なんて影も形も存在しなかった、そういう時代だ。スポイラーサイトはほとんど存在せず、あっても英語だからロクに読めない。先がわからないぶんすべてが新しい。何もわからないから、こちらも完全に冒険である。
今でも正月など、当時の仲間が築地に集まって飲むことがあるのだが、ここノーラスの大地で作った友達は、とにかく変わり者が多い。
生活は二の次、この世界を全力で遊ぶやつらだ。単に〝ハードコアゲーマー〟とひとくくりに出来なかったし、明らかにほうぼうのネジが飛んでいた。例えば平日の昼間でも必ずいて、ログインするといきなり「ポップおせーよ」とか「リストに入れといた」とか・・・
あんたいつ寝たんだ? など愚問。
私など下っ端、普通の人には不可能なことを安々とやってのける彼らこそ本物だ。
自分もあいつらのように、ゲームの中で「遊びじゃねえんだ!」というセリフを言いたかった。
自分も含めて、今そういう友人に共通しているのは、大なり小なり〝ノーラス帰還兵症候群〟に罹っているということだ。
あまりにも熱すぎた空間を生き抜いた戦友が酒の席に集うと、やおら「あの頃は・・・」とはじまる。
小ネタで済めばいいのだが、そのうち目に涙を浮かべる者すらいる。
これ、割とたまらない。
あんな経験は、もう二度とできない。そういう残酷な結論に至ることを誰もが承知している。
あの頃とはもう違う。どこまでやれば自分は社会的に死んだことになるのか距離感もそれなりに心得ている。あいつ、今 x x x 廃人だから、返事ないよ。みたいに、死んでいることにされたのは一度や二度じゃないし、新しいゲームも「どうせアレと同じ」と早々に類型を割り出したがるし、一定の距離をおいて自分を騙すことに腐心する。P2W (金を払えば勝つ) のような見え透いた罠も、気がつけばどっぷり引っ掛っているから、危険な香りのするものには特に近寄らない。
〝基本無料〟とうたう P2W (pay to win) は実際 2005 年頃に〝発明〟されて、ゲームバランスや利幅を調整しやすいため、今では広く使われているビジネスモデルになっている。1% の廃課金者が残り 99% の無料プレイヤーを支えるいびつなエコシステムとしても知られているものの、それを使わないゲームなんぞ、今となっては探すほうが難しいだろう。
一方、P2P (pay to play。月額制のやつ) はその逆で、99% のカジュアルプレイヤーが収入源になる。マジョリティーを優遇しないとサービスの維持が出来ないから、ゲーム自体ヌルくなりやすい。その P2P しか存在しなかった当時、例えば 20 年前のこのゲームのように、〝あまりにも救いようのないゲームデザイン〟なんて、カジュアルはすぐに逃げ出すし、1% のハードコアプレイヤーにも居座られてしまう。
ハードコアプレイヤーのために用意されたエンドゲームコンテンツは、殆どの者にとっては全く遊べない代物だから、ぶっちゃけ〝金ばかりかかるお荷物〟である。彼らはあくまでも広告塔としての役割と、エクスプロイトを先に見つけるデバッガとしての役割を期待されているにすぎない。
そんな彼らのようになってみたいという気持ちは私のようなカジュアルプレイヤーにもどこかにありながら、自分にはなれないこともわかっている。
あの頃も、今も、その気持ちは何も変わっていない。
後の時代になってわかることだが、このゲームには発明と呼べるようなものが詰め込まれていた。
グループを中心とした設計、複雑なファクション、ヘイト、クラウドコントロール、レイド、オーバータイム、ネームドとレアアイテム・・・そうしたはっきり説明できるものから、敵のレベルデザイン、ダンジョンストラクチャー、共有ゾーン、トレインなど、説明しにくいものまでそれはもう様々だ。とにかくこのゲームがすごかったのは、色んなアイデアのシナジーで新たなゲーム性を創造していたことだった。
現に、今時の MMORPG のほとんどが何らかの形でこのゲームの血を引いている。
ところが、このゲームに通底しているテーマ〝無慈悲さ (harshenss)〟に魅了された人々は、その後とても苦労しているのではないだろうか。
一見プレイヤーを突き放すような設計としか思えないが、知れば知るほどこのゲームになくてはならないものだということがわかる。
今どきの MMORPG でほぼ必須の要素となっているテーマパーク然とした世界とはかけ離れた〝血も涙もない設計〟それがこの世界に魔法をかけた。
どういうわけか洋ゲー好きが多かった我々。まぁ、Warcraft3 や UO みたいなゲームが好きな連中が集まっていたからだろう。この時代においても既に個人輸入に慣れていて、調達に関して困ったことはない。PC 和歌山などの洋ゲー専門店の通販には世話になっていたし、慣れたヤツが海外のゲーム屋からまとめ買いして高価な国際宅急便代を圧縮したり、レジストキーだけ Kali や ICQ で配り、CD はジョナサンに集合してハンドキャリー、関西方面には宅配するなど謎の組織力があった。「北米以外にはまだ売れません!」なんていう出来たてのゲームでも
――住所 カリフォルニア州東京都どこそこ
なーんていう強引な抜け道を誰かが見つけてくるような突破力もあった。
このゲームの問題は〝言葉〟だ。
グループ中心の設計だから、ソロなんてまず出来ない。
いや、可能か不可能かと言われれば可能なのだが、極端に効率が悪かったり、あるいはクソゲーすぎて誰もやろうと思わない。
私は何も考えず勢いだけで始めたものの、プレイヤーのほとんどは英語圏の人々。話しかけられたり指示されたりで、はじめてそこに巨大な壁の存在を知るなんて、少し考えればわかることだろうに、あの頃は勢いだけでなんとかなったものだった。実際、赤点をとっていたほどなので私は間違いなく英語ができないのに、こんなゲームに放り込まれて当たり前に途方に暮れ、少しずつだが会話もできるようになり、そのお陰でずっと後になって仕事の役にもたつことになるのだがw あの頃のクライアントバージョンといえば、チャットウィンドウは 1 つだけ、しかも 11 行しかないほとんどゴミエグい仕様だったから、内容なんてあっという間に流れてしまい、速攻で理解しなくちゃいけないのに、当時は半泣きで辞書をめくってたらグループごと全滅してるし!
ここだけの話、そういう言語インシデントは割と普通にあった。
ネトゲ自体が生まれて間もないから〝ネットワーク越しに遊ぶゲームというものはこうあってしかるべき〟というような社会実験めいたものもあった。
例えば、メンバーの HP は見えていても、マナ (MP) が見えない。
あの頃は、どうしてそんな簡単な機能ぐらいつけてくれなかったのか不思議だった。私がやっていたクレリックはマナの残量次第で全滅する可能性がある職業ので、戦闘が終わるたびに今何 % あるのかパーティーに報せる義務がある。というか、報告を怠るとそのうち「tom! report ur goddam mana!」と注意されたものだ。
え、あの、トムって・・・ま、20 年もたった今に至っても、この見知らぬクマ姉にトムトム呼ばわりされるわけだがw
今どきのヌルいゲームと違い、あの頃の我々に〝死〟は許されなかった。
なぜなら、死の代償は〝経験値で支払わされる〟からだ。
正直こんな設計は、今どきのゲームの基準ではあり得ない。
最高レベルの 50 まで育てるのに半年以上はかかっていただろうか。レベルにもよるが、死ねば一日で稼いだ経験値が失われる。死んでばかりいるとレベルダウンするし、覚えたての呪文も唱えられなくなる。
それに、死体にはゴミも宝物も含めてありったけの装備や持ち物が残されて、裸になって街にほっぽりだされるという、エグすぎるおまけまでついてくる。
キャラを育てるのはレベル上げが柱なわけだが、そのうち〝アイテム収集の旅〟という目的も大きくなってくる。アイテムはキャラを強くしてくれるばかりではない。たとえそれがゴミみたいなアイテムであったとしても、見た目がちゃんと変わってくれる。
これがとても衝撃だったし、そのうちレベル上げのモチベーションの柱にもなってくる。
アイテム数なんて膨大なのに、個々にしっかり 3D モデルを用意するような凝った作りのゲームなんて、当時はまだ珍しかった。それに、高レベルなアイテムになると独自のデザインが用意されていたから、目の前にいる相手が初心者なのかヤバいやつなのかは一目でわかるようにもなっていた。
キャスター用の派手な紫色のローブ SMR のことを、よく覚えている。最初にそれを Freeport の銀行前で見かけた時は、刮目したものだった。そして、ハイレベルなキャスターの間で〝どこの誰から入手したのか〟という情報そのものが高額なプラチナで取引されていた。
死体は一週間で消えてしまうので、出来るだけ早く回収しなければならない。
この、死んだ場所に残された装備を拾いに行くことを、CR (コープス・リカバリー) と呼ぶ。
今どきのゲームと違い、装備一つにしろ数時間で取れればかなりラッキーなほうである。下手をすると何週間、考えたくはないが数ヶ月に及ぶものもザラにある。
そういうものを 20 個以上も積み重ねて、ようやく自分のキャラが成り立っている。
それを失うことは、キャラ削除に次ぐダメージといっていい。
しかし、死ぬのはダンジョン最深部のような危険な場所であることのほうが多く、能力を二倍三倍にも強化していたアイテムがあったからこそそこまで到達できていたわけで、裸のまま二回目、三回目の死につながる。そうしてパーティー全員の CR が完了した頃はもう経験値バーなんて見たくもない。下手するとレベルも下がっていたりして、「ちゅんちゅん・・・」と涙ににじむ朝日を迎える。
我々に試されていたのは結局〝人間性〟だったのかもしれない。
普段は理性で覆い隠している心の底が、疲労、睡眠不足、不安などの極限状態で丸裸にされる。難易度の高い CR ともなるといつの間にか居なくなるやつ。逆に、全滅とは関係がないのに友達だからって自分も死にながら付き合ってくれるやつ。旅半ばでこの世界を去っていった仲間の多くは、そうした人間関係による疲弊が原因になることも多かった。そのぶん、この世界で培われた絆は言葉で説明できない。
キャラの強さはレベルに強く依存していて、しかし経験値バーは止まっているのかと思えるほど進みが遅く、死んだときは目に見えてごっそり減らされる。
プレイヤーの心をポキリと折るのに十分だ。
ノーラスの大地を冒険していると、不意に、完全装備したままの死体を見かける。きっと理不尽な理由で死んで、裸で町に飛ばされて、心が折れてその日はもう泣き寝入りしたのだろう。
あの頃は「見ないほうがマシ」と、ブラウン管の経験値バー部分に付箋やテープを貼って隠してしまう仲間がいた。曰く、このゲームを続けるための秘訣だとか。
この〝デスペナルティー〟の設計に否定的な意見が多いのは当然だ。
以降のネトゲは EQ から多くの要素を模倣はしたが、ことデスペナルティーに関して採用した例を知らないし、後継の EQ2 すらぬるくなっていた。かといって、これが 100% 失敗だったのか? と問われれば、そうとも言い切れない。
初期の 3D ゲームであっても、綺麗とは言い難いビジュアルだったにも関わらず、ダンジョンの奥地、巨人族の足音、ボス部屋のドア前で聞こえてくる微かなうめき声など、〝たかがゲームごとき〟で味わったことのない、なんとも言えない恐怖があった。
その恐怖を後のゲームで探そうとするのだが、どこにも見当たらない。
あれはきっと、この理不尽なデスペナルティーが強く関わっていたに違いない。
もちろんこれを肯定する気はない。良い悪いは別にして、人類はまだこれを超えるデスペナルティーを発明できていないのだろう。
当時を振り返ってみると、プレイヤーの大半は〝Ultima Online〟を卒業してきた冒険者だった。
言うまでもない。
ネトゲを勃興した金字塔である。
アレのおかげで、人生が破壊人生が変わった人も多いだろう。
この頃はしかし、度重なるカジュアル向けの改変が祟り、ハードコアゲーマーにとって「ヌルい眠いぬるぽ」と、その世界から足を洗うのに十分な理由が揃っていた。デベロッパーはより儲けが出るカジュアル路線を選び、ゲームは完膚無きまでに去勢され、ハードコアプレイヤーはブリタニアから姿を消した。
この頃のインターネット人口は今と比較にならないほど少なかったはずだが、かくしてこのゲームは 40 万人もの加入者を獲得して大成功を収める。
そのうち〝EverCrack (エバーコカイン)〟と揶揄され、〝EverQuest widows (EQ 未亡人の会)〟という ML まで出来て、「リビングにいる夫が冒険から帰ってこない」なんて、北米ではちょっとした社会問題にもなったという。
しかし、元々あったストイックな設計思想にも少しずつ陰りが生じる。
思い出してほしい。時はドットコムバブルの真っ最中だ。
誰しもがインターネットという勝ち馬に我先と乗りたがっていた。
それに、ゲーム業界でも EQ の後を追う競合タイトルの足音が聞こえてきていたから、この頃の開発者の心理状態は尋常ではなかっただろう。親会社は斜陽に差し掛かりだしたソ○ーだし、ゲームなんてド素人のマーケがしゃしゃり出てきたり、何も知らない本社がクソみたいな要求を上意下達で突きつけてきたり、大企業であればあるほど理不尽な力学がうごめきはじめるのは世の常だ。そこに金の匂いがすると、早晩そのプロジェクトは寄生虫の巣と化す。
いいかお前ら、まずお前らはゲームという商品の売り方を知らんズブの素人だ。こいつの潜在能力はこんなものか? もう少しイージーにして間口を広げたら一挙に加入者倍増でウハウハ間違いなし、そうだろ?
脱会したお客様の声に真摯に耳を傾けるんだ。アンケートを分析すると・・・どれどれ・・・
はああああ?! 大陸横断ごときでお客様を三十分も走らせるなんて、気でも狂っているのか? 瞬間移動のポータルなんて簡単だろ!
はあああああああ?! コインに重量があるだと! 何の意味があるんだ、明日から重量ゼロだ!
おい、なんだ、このポリッポリなキャラは! モデリングからやり直せ! ←私の中で EQ が壊れた理由がコレ
いいかお前ら、プレステ 2 への移植は本社命令だからな! (*ぜんぶ個人の妄想です)
細かい修正の一つ一つなんて、大勢に影響があるように思えない。
しかし、それも積み重なってくると、一部のハードコアゲーマーが嗜んでいた、なんというか、くさみ、渋み、のようなものが失われ、奇跡的に創造されたバランスは崩壊し、気の抜けたただ甘いコーラのように荒廃し、どこが好きかと言われても説明できなかったあの不思議な世界は黄昏へと沈む。
だから、昔の MMORPG を熱く語る四十台のおっさんには、それなりの理由がある。
〝成り立たないことが成り立ったすごい時代に生きていた〟
あんな経験はもう二度とないのかもしれない。いやしかし・・・と、そんな過去の亡霊に取り憑かれ、未だにあの頃の熱を追いかけている。
悪いことは言わない。
そのおっさんが、EQ というゲームがどれほどエグかったのかを前のめりで饒舌に語っているからといって、そう、まさにこの私のことだ、それを酒の席で耳にした若者は「なんだクソゲーじゃん」という言葉をその日だけは封印したほうがいい。それを口にしたが最後、その日は帰れないと思え。私も含めてまわりの EQ プレーヤーだったオッサンどもはそういうクソみたいなエグさも含めて、こんなものが好きで好きでしょうがなかった。酒で饒舌になってくれば思い出補正の針も振り切れ、数え切れないほどの〝おれの伝説〟として、そうこの罪深きクレリックが放つ蚊のようなスマイト・スパムのように! 始発を過ぎてからも君に叩き込み続けることだろう!!
あまつさえ!
今ウォーリアーが足らないんだけど、いつこれる?
なんて、もはや寝言のような勧誘までありうる!
おおっと、つい熱くなってしまった。
さて、そういう熱い思いへの未練を断ち切れないでいるのは自分だけではなかったらしい。どこかの誰かがとうとう実現してしまった。それがこの〝Project 1999〟略して P99 である。
彼らはクライアントのリバースやらで当時を再現するエミュレータを作ってしまった。EQ サーバのソースコードもここにある。
ここまで読んでしまったあなたもそうだろう。実をいうとここ数年、こいつの存在を認識してはいた。
私のようなかつての EQ プレイヤーが、この腐臭・・・お、おおっと違う違う! おほん、甘い匂いに気づかないはずがないだろう?
おっさんゲーマーの誰もが身につけている最終奥義〝見て見ぬふり〟が発動していた。
しかし、先日 amazon.com の方で買い物をする用事があり、嗚呼、何たることだ!
気がつくと中古のパッケージが届いていた。
たかだか 80USD ごときで、終わりがおっぱじまりやがった!
エミュレータと言ってもどこかの誰かの家のガレージで動いているわけではない。P99 が主体となってデータセンターでしっかり運用しているサーバだ。じゃ、クライアントはどうなってるの? 実はそれが疑問だったのだが、なんてことはない。あの頃の EQ の CD からインストールしたフォルダに、P99 配布の謎 zip を上書き展開すれば終わり。なんとも強引な代物なのだが、実際にこうして遊んでいても、エミュレータであることを何も感じさせない。
しかも、余計な機能は P99 が意図的に封印している。
例えば、あの頃はマップがなかったのだった。
何を言っているのかわからないと思うので、言い直させてほしい。
マップ機能そのものが 1 ビットたりとも実装されていなかった。
言いたいことはわかる。この手のゲームで今時マップが表示されないなんて〝バグ扱い〟だ。「で、ここドコよ!?」なんて迷いに迷いまくっていたあの頃、どこかの誰かから聞きつけた噂で光明が差し込む・・・それによれば /loc というコマンドで自分の位置がわかるらしい! おお、それはすごい。どれどれ?
――おまえは (x, y) にいる
x と y は、小数点以下二桁の精密な座標である。
ってあのね・・・
そこまで教えてくれるんだったら、もうマップぐらい出して。なんで出さないの。なぜなら私はこう見えて筋金入りの方向音痴で、コンビニに入ってきた方向とは逆の方向へふんふんふーんと出ていったりするのはもはや日常。
20 年も経って白状するが、そのせいで何度パーティー、いいや下手すると 100 人規模のレイドまるごとワイプさせてきたことか、知れたものではない。
まだ若かった私は、設計者の深遠な思想を理解できなかったが、おっさんになった今なら痛いほどわかる。
マップは世界を狭くするということを。
我々は、ここノーラスへ何をしに来た?
冒険だ。
そんな世界を狭くしてどうする?
剣と魔法のファンタジーの世界に GPS みたいなハイテクで自分の位置が上空から丸見えなんて、少し考えれば無粋の極みだ、そうだろう? しかも、私みたいな方向音痴とくれば、マップ機能が無いというだけで世界が百倍に膨らむ謎の副作用まである!
できるけどやらないという決断は、ときにやるよりも困難なことだ。
それでは、どう世界が広くなるのか、一例を挙げる。
この森〝グレーター・フェイダーク〟は、レベル 1 〜 7 ぐらいが対象だから、ゲームを買った直後のいちばんわくわくしている時、言い直すと、製品の第一印象が決まる重要な場所の一つである。
普通の感覚でゲームを設計したのなら、そういう場所のマップの設計はものすごく慎重になるだろう。少なくとも〝簡単さ〟ぐらいは徹底してしかるべきだ。月額いくらのゲームは、続けて遊んでもらわなければ商売にならないから、ましてや迷わせるなど言語道断である。
そんなことは、素人の私にだってわかる。
そういう超初心者ゾーンたるべき森を、彼らは〝人類のゲーム史に残る迷い森〟に設計した。
当時この森で迷ってなけなしの装備を失った初心者は、左手で EQ の CD をパッケージごとゴミ箱にダンクシュートしながら右手で退会ボタンをクリックした。
いいや、勿論その現場を見たことはない。
でもきっとそうだ。現に私もそれを何度もやりかけていたことを覚えている。
我がハイエルフの麗しき隣人ウッドエルフも、ある意味で犠牲者だった。
彼らの首都がこの森の中心の樹上にあるように、森の守護者ドルイドやレンジャーをここから始めるプレイヤーは多い。だから、レベルが低いガキの頃は彼らと一緒によく遊んだものだ。「ドルイドは遊ぶ前にまず木に番号をふる宿題をやってこい」とか「君ら森のプロ、レンジャーは富士の樹海を知ってるよね? 一度入ったら二度と出てこれないから suicide forest なんつって、あいや勿論君らの森には負けるけどね」などという冗談を言いたいがために、私のうんこ英語も火を噴くだろうよ。だって、どこもかしこも何もかも同じ木、同じ地面、葉っぱもきっちり四方向に四枚だけ!
20 年も経って、そんなこともすっかり忘れていた私。
この時もひどい雨が降る濃い霧の中でゴミみたいな装備しか持っていないレベル 9 の死体の CR に全裸で二時間も彷徨ってはオークに絡まれ、そしてパンチで格闘しながらまた死んでるし!!
ま、それはいい。
しかも、レベル 60 モンク姉さんが見かねて「おーいそこのきみー、きみだよきみー、ずっとパンチしながら出る死ぬしてるきみー、きみの死体ここだよー」などと、ゾーンワイドでシャウトしてくれやがったのだが。
ま、それもいい。
問題は、それが街に上がるリフト脇の木陰に転がっていた、と、そういうことだ。
実際、EQ もカジュアル拡大路線のため、数年後にマップ機能が追加されたと聞く。しかしこの P99 版で M キーを叩くと
「そんなもん、わしらが無効にしたよ。ぬわっはっはっは!」
というメッセージが表示される。誇らしく赤色で。
「う、うん、そうかもね」
激しすぎる思い出補正と、酷い方向音痴の両者がないまぜになった複雑な感情は、今でも言葉にできない。
カネがゲームを作るのであれば腐らせるのもまたカネだ。
違うのは流れる方向だけ。
UO、EQ、成功したタイトルはどれも経済というダークサイドから漂ってくる強烈に甘い匂いから逃れられなかった。あの、ゲーム界では神の如きブリザードですら、最近は怪しい。P99 は、ダークサイドに身を落とす前のバージョン、二本目の拡張 SoV で時間を止めているから、これがどこか輝いて見えるのは、そういう潔さなのかもしれない。
実際、2011 年から運用している P99 は、月額課金やアイテム課金をしだしたら本家から訴えられてしまうから、ダークサイドに堕ちようがない。
この世界ではなかなかめずらしいことに、本家公認のエミュなので、法的に潰されるような可能性も少ない。彼らのノスタルジーに対する想いはそれはもう並大抵のものではないらしい。
閑話休題、どうして〝Tomoecha〟なのか説明しておく。
UO で遊んでいた 1997 年当時は、色んなお茶の飲みくらべをしていた。
その頃の生産キャラは〝Soukenbicha〟といって、こいつは本業の服屋がまったく儲からない。後に親友、そして今の同僚となる〝nBang〟という名の PK に三叉路でぶっ殺されつつ、鉱夫のバイトで糊口をしのぐ。ソーイングキットの片手はスコップとか、もはや何がしたいのかよくわからないムキムキの黒人だ。
こいつも後に同僚となる〝Calsonic〟や〝Ryous〟とお金を出しあって初めて買ったマイホームは、ヒスロス島の西の密林にあった。
今考えると、本当にとんでもない場所に建てたもんだが、そこにしか土地が余ってなかったのだから仕方がない。そんなある日のこと、ドラゴン頻出ポイントの山でせっせと鉄鉱石を掘っていると、どこからともなく湧いてきた PK に当たり前のようにぶっ殺され、金目の装備はおろか掘っていた鉱石までドリブルしながらどこかに消えやがるし!
しかも一番腹の立つことに、私の銘が入った服は全部その辺に散らかしていくとか、ふざけんなよお前!
そうして幽霊になってさまよっていた私を助けてくれたのは、ワンダリングヒーラーという NPC である。どういうわけか「これや!」と思いたち、グランドマスターヒーラーを目指して Tomoecha というキャラを育てる。そして PK 頻出地帯で、もちろん自分も殺されながらも犠牲者たちを蘇生しまくってたら、どういうわけかヒーラーの面白さに目覚めてしまった。名前は大塚ベバレジの〝十萌茶 (ともえちゃ)〟からとったもので、名前でネタバレしているように中身はただの十六茶クローンなのだが、どうしてお茶が萌えなのか結局大塚からは何の説明もないまま発売中止となる。
さて、EQ でキャラを作るとき、ヒーラーしかない! と、一番ヒーラーっぽい職業のクレリックを選択。名前も面倒なので UO から襲名。そういう適当なノリで作ったキャラで、まさか何年も遊ぶことになるとは・・・
ところで、ダンジョンの最深部とかレイドとか、このゲームは〝待ってなんぼ〟なところがあって、そういう時はチャットをしていないと寝落ちする。
「でさー、ともえちゃって、なんで最後に「ん」つけなかったの?」
「どうせ、ともえちゃん取られてたんだろ」
「げえ、しのらーなの?」
とかもう、散々な言われようだ。ふっ、そんなことを言っているようじゃあ、このキャラのとてつもない出生の秘密を君は知らないらしいな。
いいか、よく聞け。まさかの初期ステータス 25 ポイント・オール・ストレングスはダテじゃないぜ? は?! クレリックなんてウィズダム全振りが基本・・・筋力なんて何に使うんだ的なキャラを 50 まで育てたあげく、フル紫アーマーなんて、こいつ狂ってやがる・・・
ま、それはいい。
しかも、まさかの〝Specialization: Abjuration〟・・・
い、いや、これについては言い訳させてほしい。
スペック導入直後なにも考えず辻バフしまくってたら、
――あなたは今日からバフ専門家ですおめでとうまる
って、おーーーい!!
コンプヒール取り上げたらクレリックなんてゴミだろ・・・どう始末つけるんだこのキャラ・・・ただでさえストレングス、ぼそぼそ、い、いいや、なんでもない。
その時点では、まだスペックのリセット機能なんて実装されておらず、ペティションして GM にうそ泣きしてみるものの、私のうんこ英語のなせるわざ。何の解決もしないからそのまま泣き寝入り。その後 Solsek Temple のスペックリセット機能実装までの数ヶ月は、レイドでも「Abj クレリックなんてバフでもしてれば」という冷ややかな目線を感じながら、レイドの後ろの方で細々とシンボル係など。
ま、今でこそこうしてネタにもできるが、このキャラのネタはそれはもう捨て身すぎて・・・
な、なんと、Tomoecha ってお茶だったのかよ!
という、本当にどうでもいい説明がようやく終わったので〝ペロ茶〟と言えばもう説明いらんな。
あのクレリックは、私の中で特別な存在。低レベル帯からあまり離れてしまうと、万が一いいや十が一にもこの世界に転落、、、あいや違った、大転生だよ! なーんて、してくるかもしれない友達と一緒に遊べなくなってしまうではないか。そんなわけで、この辺で棚上げをしてエンチャンターでも育ててみよう。
初めて遊ぶクラスなので、街の入り口でああでもないこうでもないと人体実験。
自分に魔法を打って、何が起きるのかを試すのはこのゲームの定番である。
なぜならこのゲーム、説明をしないことを美徳としている節があるからだ。魔法なんて、名前、系統、それっぽいアイコン、終わり。一言も説明がない。
「さーて、いよいよレベル 12 がきた! 新しい魔法楽しみだなーでもなんだろうな、ぷしゅー・・・ん? 何も起きない・・・おや? なんかガード様がいっぱいこっちに向かってきて、っておい死んでるし!」
レベルダウンし実験していた魔法そのものが封印。
これ、EQ あるある。
そもそも、1999 年当時はエンチャンターという職業自体、よくわからなかった。
「なんだよ、このキャスター、超弱えー」
なんて言って、普通はレベル 10 を前に遊ぶのをやめる。
キャラを育てるというのは、一緒に遊ぶ仲間から一人分の経験値をもらっているわけだから、それなりの責任や覚悟みたいなものが漠然とあるのだ。かくしてエンチャンターはレベル 20 ごろ、カジックとかガックみたいなリンクのきつい中級ダンジョンで頭角をあらわし、〝Clack (コカイン)〟の異名をもつ Clarity をレベル 29 で覚えるやいなや人々を麻薬漬けにしたあげく、レベル 40 を超える頃にはもうパーティーにエンチャンターがいないというだけで全員落ち着きがなくなるほどの人気職に化けることとなる。
あの頃はしかし、そんなことなんて誰も知らなかったのだ。
ちなみにこの時のペロ茶、レベル 4 のゴミである。
見ての通り、ギルドにすら所属していない。いつでも消せる馬の骨キャラだ。そんなやつに
「アイテムを別キャラに移動したいんだけど、ちょっといいかな?」
なんて、同じレベル 4 のダークエルフな兄弟が囁いてきた。まぁどうせブロンズとかそういうジャンクでしょうなぁ、いくらなんでも裸は嫌だからね、わかるよ兄弟! そうして沸いてきたパパのドルイドから渡されたカバン二個の中身を、しなくてもいいのに覗き見する。
って、うはw
ミスリル BPw
そして、アズレw
このアイコン懐かしすぎ!
しかし、どう見ても兄弟、あいやちがった、旦那! これ、五百プラチナは下りまへんがな!
持ち逃げ・キャラ消去みたいな事態を相手は想定していない。
しかしその後、事情がなんとなくわかる。
オークションを眺めていると、ほとんどのアイテムが〝キロプラチナ〟で取引されている。五百プラチナなど小銭。Tomoecha なんてレベル 15 の時点で既に買えないスペルがあるほど貧乏だったのに、である。
とにかくこのサーバはやたら大人な香りがする。辻バフとか無償奉仕ツインクとか、いやなにもそこまでせんでも・・・ってほど親切だ。しかも私と同じ年齢が多いからなのか、英語音痴の私でもわかるほど、会話に現れるギャグが寒くて反応に困るw
そういう時の lol は最強w
さて、作ったばかりのエンチャンターなのに、いきなりゴージャスなローブとか杖を持っているのには理由がある。
その奇跡は、ネリアックの入り口で起きた。
魔法の人体実験をしてガード様にぶっ殺されていると、いきなりレベル 50 のネクロマンサー様が横に立ちはだかり、何かを手渡してきた。
思い出して欲しい。
ついこないだ、船の上から指をくわえて眺めていた
――金色の野におりたつべしオラクルおじさんのターコイズブルー萌えローブ
じゃないかあ!
何かの冗談だろう。
そうだ! 初心者にハイレベルのアイテムをトレードウィンドウで見せびらかした挙げ句に〝取引完了〟ボタンを押さない、なんていう嫌がらせは当時もあった。
ははーわかったぞ、どうせそれだろ?
って、本当にくれんのかよ!
それだけじゃない。
見てくれこの杖。こう見えてなんと 1HB! アンバランスなほどデカいから当時も一部で魔女っ子杖としてブヒ需要があったことを覚えている。Sol-A の酔っぱらいゴブリンがぽろりするところの、アレだ。そのうえ、ゴブリンキングの指輪 まで・・・
「あんた、さっきまで Sol-A に篭ってたんだろ? ペロ茶はリサイクルボックスか?」
などというつっこみは、思っていてもやらない。
彼らからすればゴミなのだろうが、この三点で優に 150 プラチナを超えている。10 プラチナの魔法すら買い控えをしている私からすれば、それはもう、バカみたいに大金だ! でも私は何も出来ない・・・と思ったら、相手はネクロマンサー、つまり骨チップがないと生きていけない連中。カバンの中にあった骨チップをお賽銭がわりに投げつけ、すかさず /kneel と /bow のスパム発動!
お前、プライドのかけらもねえな。
それはともかく、このネクロ様の何がすごいかって、
「この世界に新人が訪れるのは珍しいので、これは餞別だ。では戦場で会おう」
なんてセリフまでキメてやがる!
かあーーー!
私もそういうミサワみたいなの一度でいいから言ってみてーw
この職業〝エンチャンター〟は初めてなので、なかなか新鮮できもちがいい。
敵を寝かせたりチャームするのが仕事なので、ステータスの中でもカリスマだけは万難を排してでも確保しなければならない。
そうなると、カリスマ最強種族の〝高飛車美人秘書ハイエルフ〟の一択になるわけだが、十萌茶がもうその高飛車ハイエルフなわけで、同じ種族で遊ぶのは後ろ向きな気がする。他にローブ萌えなのは――私の中で――つんでれ腐女子という設定のダークエルフ。腐ってもエルフ族なのでインテルはそれなりに高いのだが、いかんせんエヴィルは基本カリスマが低い。25 ポイント全ツッコミしてもすっぴんの高飛車にたった 7 ポイント美人なだけ。さすがツンデレ萌えだけのことはあった。
そのはず、町で見かけるエンチャンターはほぼ高飛車ハイエルフだ。
もしかしてこれ、いいや、こいつは間違いなく、茨の道・・・と思ったのは一瞬だけでこういうのは性能じゃない。深く考えるな。よりレアかどうか、そういう勢いだけで始めればいい。なーんていう安易な判断が、その後になって大失敗だったことを知るw
私はグッド勢でしか遊んだことがないので、エヴィルの事情なんて、ほとんど何も知らない。
今思えば、グッドは本当にぬるま湯だったと言わざるをえない。
このゲームは適当に遊ぶんだ。いいか、絶対マジになんなよ・・・
などと、自分をなだめながらはじめた P99 だったはずなのに、とんでもない茨の道を選んでしまった模様。ま、エンチャンターだから、それでもかなりましなんだろうけど。というのは、エンチャンターはいろんな種族に変身できるのだ。これ、人間変身のイリュージョンを使っている状態なのだが、こうしてローカルな種族に変身すれば、とりあえず衛兵に尻をおっかけまわされることはない。それに、商人もちゃんと相手をしてくれる。
土地勘さえあれば、瞬殺もない。
そう、土地勘さえあれば・・・
ご存知の通り、私の場合はあっても無いようなもんだから・・・
特に危ないのは、ぼーっとしている時だったりする。
旅の途中、商人キャラバンとか辺鄙な村に変身しないまま突入し、そして何が起きたのか理解するまえに w 瞬 w 殺 w
ここまでで、ちょうど一ヶ月が経過した。
さて、P99 で遊ぶにはこの〝EverQuest Titanium〟という 2006 年発売の 5 枚組 CD (3.5GB) がいる。
ぶっちゃけ完全にゴミだから新品なんて流通していないので、誰かの中古を買うことになる。もちろんレジストキーなんて使用済み。まぁ、我々に必要なのは CD 上にあるバイナリの方なので、これはどうでもいい。
この〝タイタニウム〟だけは P99 のせいで 60 ~ 100 ドルで取引されているので、興味のある人は「南無三!」と叫びながらクリックしてみてはいかがだろうか。
それでは、ノーラスで会おう!
<つづく>
<かもしれない>
<とりあえず Guk とか Cazic までやりたいな>
その後・・・
この記事は 2017/8 ごろに書いたもので、Project1999 の Blue サーバで遊びはじめたときのものだ。その後このペロ茶は日本人ギルド <Kagerou> に入れてもらい、レベル 60 まで遊ぶこととなる。やがて日本人も減っていき、私も EverQuest をやめて WoW Classic で遊んでいた。そんな時 Green サーバが始まったことをきっかけに P99 を再開し、Blue の時とは比較にならないほど賑やかな日本人ギルド <Akatsuki> に入れてもらい、クレリックで遊ぶこととなる。