あるクレリックの日常

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 それは、金曜日の夜のことだった。

 ログインしてギルメンの様子を見ると、xp グループにヒーラーは足りてそうだ。

 こういう時は /role をはずし、/who all 56 60 cleric をして同業者の様子を伺いつつ、蘇生の依頼を待ちながら適当に走る。そして corpse を見かけると、1) con して res timer 確認、2) 残っていれば /tt need res? のメッセージを送る。

 1) で 5 割が古すぎ、2) で 8 割がオフライン、その結果有効な corpse は 10 体に 1 あるかないか、というところか。

 暇なクレリックの日常である。

「 can u rez me for 100pp plz? 」

 その tell が入ったのは、High Keep であらかた蘇生し終えた時だった。さて、この一文に不足を感じるあなたは、きっとクレリック経験者だろう。〝最初のメッセージ〟に〝どこに corpse があるのか〟が書かれていない依頼は無視することがある。

 難しい場所を断る手間が面倒だからだ。中には

ーー〝bear pit〟で蘇生してくれないか?

 無理だと断ると、

ーージャイアントは私がFDで引っ張るし、もし君が死んでも私が死体を引きずるからさー。

 なーんて私の死が前提の依頼まである!

 そりゃあ流石の私でも、こういうヤバい場所は断るよ。

 クレリックは機動性に相当な問題を抱えているのに、蘇生なんてぶっちゃけ移動が 9 割であって、残りはただ座ってるだけだ。SoW も Invisi も持っていないし、ポーション消費にも抵抗がある。そういう消耗品を使って現地に行ったはいいものの「あ、ごめん、他の人に 90% もらったわ」とか「急用ができたのでログする」など、不発に終わることなんてザラである。

 チップ無しというのは別段気にならないが、赤字は流石に避けたい。

 この時はしかしヒマだったので、場所を聞いてみる。すると・・・

 ootぇ

 Fire Pot クレリックであっても、oot なんぞこの世で一番遠い場所。

 運が悪いと 30 分以上も移動に取られてしまう。

 ところが私は少し面倒なやつで、チップのためだけというわけではないし、対価を要求したことも一度もない。今は Green サーバに Kunark が入って 1 ヶ月と少しという時期だからレベル 56 以上はまだ少なく、そういう特殊な状況で急いでレベルをあげたのも、仲間はもちろん見知らぬ人に 96% xp back で喜ばれたい。その結果、心からチップを渡したくなればお互いハッピーだし、何ももらえなくても「ありがとう」があれば満足だったりする。

 そういう気分でクレリックをしてる人は結構いるとおもう。

 逆に、何もくれないよりも「ありがとう」の一言も無いほうが印象が悪い。ま、そういうケースは稀だが、中にはマフィン 1 個とミルク 1 本だけくれた monk 様なんて笑いをくれたり、ペリドットを 2 スタックもくれるような富豪の necro もいたりで、こればかりは本当に上から下まで様々だから、チップ文化を知らない私にとって相変わらず面白い。

 でも自分の感覚では、タクシー業 <Dial a Port> の相場と同じ〝レベル = プラチナ〟程度であれば十分じゃないかな? とも思う。

 ま、ヒマだし「omw」と返事。

 案の定、船待ちなどで 20  分以上もかかって oot に到着。すると・・・

いねーしw

 お前が寝てどーする!

 こんなクソ辺鄙な場所までせっかく来たんだ。転んでもタダではゲートバックせんぞ! 観光してやる!

 と、oot 観光スポットその 1〝AC の丘〟別名〝MQ 商工会〟に顔を出してみる。

 Journeyman Boots Quest の要となるアイテム AC リングのキャンプ地だ。

 もう人が減り止まった時間帯なのに、ここだけは賑やかである。誰かが隣の島から seafuly をプルなんてして暇をつぶしてるらしい。ものは試しと「can u add me the list please?」と言ってみると「added!」と気の良い返事。

 それにしても、この連中の謎のバディー感。まるで魚市場のセリを眺める観光客のような感覚にめまいを覚える。

 ところで、この AC キャンプのリストは大手ギルドが用意した Google docs で管理されている。

 そのページを、しないでもいいのに覗いてみる。

 ぶーー!

 と、飲んでいたおーいお茶を吹き出し

 25 番・・・

 あいも変わらず、ココは無茶苦茶だ。

 group invite も来てしまったし、ヒマだしで、とりあえずバフでもしようかとクラスを調べるために who をしていく。dru・・・shm・・・あ、あの、お前らね、JBoots なんぞ一生いらねえだろ的な・・・いかにもブーツディーラーのにほいがプンプンする連中だ。ま、alt 用という可能性も、無くはない、のだが・・・といった具合に、こういうファーマーは鼻持ちならないとは言わないまでも、肯定的な文脈で語られることがあまり無いのも事実。

 需要があるから供給が生まれるのだし、私はこうしたロールプレイもありだと思う。それに、Blue で見かけてふいた海中死体牧場など、こうした連中が編みだす手法がどのように洗練されていくのか業態を観察するのも面白いもの。

 一緒に seafuly を殺しながら、xp は入っているものの、レベル 57 なんて 1 ドットも増えない。時間的にも duo 相棒の P きゅんが湧いてくるまで、ここで暇つぶしでもしていよう。こんな辺鄙な場所にレベル 56 以上、つまり 96% xp back できる暇なクレリックなんぞそうそう来ないだろうし、ついでに「/ooc ressing at ac」などとヒーラー業務も営業していると、定期的にドザえもんが漂着してくる。

 

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 今のところは AC はテンポよく湧いていて、リングをゲットした先頭の人は当然のこと、待ち疲れた人々が、一人減り、二人減り・・・

 気づけば先頭のバーバリアン・シャーマンと私だけになっていた。

 時刻は 22 時半、私はまだ 23 番の位置にいる。

 さて、実はここらあたりで、自分が JBoots を持つという良からぬ妄想がほんの少しだけもたげてきていて、捕らぬ AC のリング算用なんてことをはじめていたことを白状したい。

 あくまでも感覚だが、AC は平均 3 時間で spawn、リストのオンライン率が 50% と仮定・・・すると私の番は 33 時間後に回ってくるらしい。ということは、日曜日の朝 9 時ごろの計算になる。これだと休み中に来るので、理想的とまでは言えないまでも、まともなキャンプと言っていいだろう。

 よしよし、今日はこの辺でそろそろ引き上げるか・・・そう思いはじめたまさにそのとき、彼の Ancient Cyclops が湧いた。

「早かったな bro =^~^=」

「手伝ってありがとよ bro!」

 なーんてね、愛犬に heroism と symbol とたまに CH をしてるだけなので、ほとんど何もしてないんだが。お互いに飛び跳ねるわ /giggle だわ /bow だわ、ひとしきりお祭り騒ぎをしてから、気を取り直して次の人を探すことに。

 これだけの人数がリストに連なっている。妙な名前のスペルを /who all 誰それ、としていくのはかなり骨が折れる作業なので、ヒマだったしマクロにしていた。ところが、こんなに早く AC が沸くとは思っていなかったので、しばらく動かしていなかったのだ。最後に動かした時は一人だけがオンラインだったのだが、今はもういない。

 タイプミスもあるだろうし、マクロの内容と Google docs を突合していた時だ。すると彼も彼で、

「俺はもう二度もタイプしたぜ bro」

 と言っている。そうこうしているうちに PH も湧いてしまい、それを尻目にこのシャーマン様は妙なことを言い出した。

「man、今お前の目に誰か見えてるかい?」

「え?」

「だからさ、お前の番だぜ bro」

 ぶーーー!

 本日二度目のおーいお茶である。

「お、おう」

「そんじゃまあバッサリいこうか」

 なーんていいつつ、この剛毅なシャーマン様は愛犬を PH にカマせながらリストを大胆に編集。私は 22 人もゴボウ抜き、リストはたったの 5 人になった。

「話のわかるシャーマン様だぜ、bro!」

 なーんて、もう開き直るしかない。

 ところが、数 respawn をこなした頃だろうか。

「ちょっと用事があるのでログする。自分もリストの後ろにくっつけといたから。また戻ってくるぜ bro」

 などと言って、シャーマン様がログアウト。

 それにしても、さっきまでリング算用をしていた自分が馬鹿みたいだ。一見賑やかでありながら殺伐とした AC キャンプ、それが今私たった一人という事実に、狐に化かされたような心境である。

 

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 意外にも、こうした空白時間は存在するらしい。金曜日の深夜なんて北米からしたら金曜日の早朝。一番人が少ない時間帯、つまり我々ジャパンからすれば狙い目である。

 とりも直さず、さあここからが本番だ。

 普通のクラスであったなら、もうほとんど終わったも同然、下手をするとエンディングテーマを流していてもおかしくない。

 でも、よく考えてみると、私はクレリックである。

 ヒールだけは得意だが、他はもう、特にダメージはからっきしな爺さんという設定だ。ちなみに 3 年前はレベル 54 の Enchanter でここに立っていた。へっぽこ剣士様に haste、そして mob には slow さえしておけば、cyclops なんぞ余裕・・・その気分が抜けていなかったのだろう。こっちはレベル 57 なんだ、どうにかなる。と、ナメていた節もある。

 いや、cyclops 単体は何の問題もない。次に pirate か Boog さえ湧けば mana は十分挽回できる。しかし、2 連続で cyclops が湧いたらもう OOM って、あのね! 1 匹で 35% ぐらいまで減ってるので、次の spawn までにはとてもじゃないが戻せない。

 そのうち、OOM で海の中へ遁走させてしまった cyclops を追いかけるのに kedge 用ガスマスク、蒸着!

 なーんて・・・

 だんだん何をやってるのかわからなくなってきやがった・・・

 これはいかん!

 OMG!

 OMFG

 誰か! へぷる! へくぷ! へくるっぷ!

 いいやちょっとまて・・・

 もしも、だ・・・

 こんなとき地獄のブーツディーラー様が湧いてきて、a cyclops ごときを目の前に脂汗を吹き出しながら med しているヒーラー爺さんなんてものを発見されでもしたら・・・

WTF is this shit? 」

 と、リストから除外の刑。

 まずーーい!

 タナボタ的に 1 番を取ったと思ったら、こんなオチが待っていた!?

 いいや、終わらせはせん!

 誰がハゲだよ!

 なーんてことを、あーだこーだと泡を吹きながら 10 spawn ほどぶっ殺した、まさにそのとき、あのシャーマン様が湧いてくる!

「super oom」

「なんだよ大変そうじゃないか。加勢してやるぜ bro」

「マジこのキャンプから蹴り出されるかと思ったぜ bro」

 すると誰かが目の前に corpse を引っ張ってきた。それを見ていたシャーマン様がぼそり。

「こんなところに引っ張ってきやがって、クレリックなんて期待してんのか?」

「oom のクレリックなんてゴミ同然で悪かったな bro」

 mana も回復、蘇生をすると、現れた裸族いわく;

「ありがとう! いや〜まじ大変だったわ、seafuly が add したとたんクライアントがフリーズしてさあ (以下略」

 などと、ひとしきり喜んでいる。

「は? あんた、クレリックだったのか bro!」

「今まで一体何をみていたんだい bro」

「そんなローブ着てるからなんで cyclops ごときに手間取ってたのか不思議だったが、これで理由がわかったぜ」

 あんたなぁ、ずーっと愛犬にバフとかヒールとか、って私の仕事をおおよそ気づいてなかったのかい・・・

「そうそう、俺もクレリック持ってるんだ。そのローブ見せてみ?」

 と、なかなか恥ずかしい性能をしたローブのリンクを貼ってみる。

「・・・いい天気だな bro」

「いい天気じゃねえよ bro」

 しかし、何匹か殺すうちに、このシャーマン様、片手間でプレイしているらしく、またしばらくログアウトするかも、なーんて怖いことを言い出す始末!

「ま、なんとかなるさ bro」

「なんとかならねえから困ってんだよ bro!」

 やばい・・・またあの oom 地獄がくるのか? 来てしまうのか?! そこに奇跡の tell !

「 hima dasi help ikuyo- 」

 嗚呼、まさに天の声!

 程なくして現れた相棒 P きゅん、レベル 59 の Mag 様・・・なんてこった! ふんが! ふんが! という鼻歌まじりに cyclops をゴリゴリ削っていくレベル 57 土エレ様の、なんと頼もしいことよ・・・このときばかりは、あんな姿をしたエレメンタル様に、後光が射していた!

 むしろ、何時間かかるかわからんようなクソキャンプに付き合わせる私も、どうかしてるけどね!

 で、はじめたのが 22 時半、それから午前 2 時半でようやく AC 様を拝む!!

 

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 巨人の指輪は人間サイズだと腕輪だよね〜という設定がまたにくい!

 int +5 なのに、意味もなく装備? しますとも!

 

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 そこからが早かった。

 バンクで「3、2、5、0、ゴールド! 確認!!」なんて指差喚呼していると、相棒「rapier totta」あんた、はえーよ!

 ラス山に到着するなり「ph killed」またはえーよ!

 そうして、spawn 場所で待っていると・・・

 いやなオッサンが視界に入ったような気がした・・・

 

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そうヤツの名は Brother Zephyl

 冗談じゃねえよ bro!

 大体あんたはなぁ、いつもいつも呼びもしねえのにこっちのルンルン気分に水を差しやがって!!

 レベル 61 の GM Monk 様なんぞ何をどうあがいても対処不能

 てかハズレ pop が raid mob なんて設定したハゲ、どこのどいつだ!

 誰がハゲだよ全く!

 ま、蘇生依頼から帰ってきたら AC リングを腕にはめてましたーなんて、もはやバタフライ効果を超越した何かである。bro 沸きは無かったことにしよう。相棒の土エレ様に duel で殺していただきまして、rapier を corpse に残置。次の日見に行くと Hasten 先生が元気に走り回っていたので、無事に JBoots をゲット!

 もちろん、意味もなく装備します。

 ぶしゅるるるるるるるる! それはもう、激しい連打。

 この、チョコで作ったようなアイコンのなんとおいしそうなことよ。

 そして、遠い記憶を思い出す。

 取ってから随分たってるのに「え、これ装備しなくてもクリックできるの?」なんて言っていた dwarf war、あいつ今何してんのかな。

 

教訓:クレリックでは行くな