名状しがたい魚野郎。フィニゲル・アウトロポス

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 ノーラスには Kedge Keep という、あまり行きたいと思わないゾーンがある。

 なぜ人気がないのか?

水中だからだ。

 いや、個人的にはこういうノリのゾーンは大好きなのだが。

 敬遠される理由はいくつかある。

 まず、呼吸問題を各々がどうにかしないといけない。

 例えば Fishbone Earring みたいに水中呼吸 (EB) のアイテムはどれも高い。後に追加されたティンカーの Rebreather は空気ボンベなので 10kg とかなり重いが、そのかわりに 1.5k プラチナとまだ買えない値段ではないので、ケッジキープもそれなりに身近にはなりはした。しかし、依然として蘇生を貰った人にすぐ EB や DMF をかける、メージは予備の石を渡すなど、水中呼吸には全員の慣れがいる。

 人気がないのは呼吸の問題だけではない。

 常に泳いでいるので落ち着かない。少しでも動くと止まるまでに間があり、地上のような感覚でキャストをしようとしても中断してしまうので、キャスターやヒーラーにとっては居心地が悪い

 また、座ってメディをしていると小魚にアグロして強制的に立たされる。これがまたニアレスト NPC を使ってターゲットできるのだが、実体に名前が表示されていないため殴ろうとしてもどこにいるのかよくわからない。このゾーンで遊ばせたくないらしいと思ってしまうほどひどい設計だ。

 EQscout で見てもわかるように、このゲームは最初期の 3D MMO だったので彼らも三次元的な移動ができる特別なゾーンたるべしと意気込んで作ったのだろうが、おかげでマップツールがほぼ役に立たないため空間認識能力が低い私などは絶望的に迷いやすい

 インビジがほぼ効くので目的の named にはアクセスしやすい。にも拘わらず、あえてここで遊びたいと思う動機に乏しい。

 不人気な理由はそのへんだと思う。

 さて、そんなケッジキープであっても、12 時間スポーンの高級魚がいる。

 Phinigel Autropos ―― 通称フィニー、PA

 腕のように見える胸ビレで術式を構築するレベル 53 のウィザード。がり勉が過ぎて、

魚をやめた何か

 である。例えば このクエスト スクリプトによれば、かつて世界の海で繁栄した知能の高い魚人「ケッジ」と呼ばれる種族だった。中でも魔法オタクだったフィニゲルは実験に失敗して大災厄を引き起こし、どういうわけか自分だけ助かったそうな。

 それにしてもこのスクリプトはなかなかのサイコだ。「ヤツはケッジ族最後の生き残り。そこで」と語ってからサラリと「三枚におろして背骨だけもってこい」とか……せめて身も食ってやれや。

 そもそも、ここは 20 年前のあの頃から違和感があった。人魚やらサメやらタツノオトシゴやら、どう見ても海の生き物ばかり。PA の巣の入口は星形にくりぬかれていて、海上保安庁のロゴにもあるようにこの図形は羅針盤で見る八芒星だろう。ダンジョンの随所にみられる意匠は海をイメージしているのは間違いない。

 でも、このゾーンの入口はカルデラ湖、つまり淡水である。

 入口は淡水だが中は海水? そういう違和感だ。

 この生態系であれば、一番しっくりくるのは人魚もサメもいる Ocean of Tears にあってしかるべきだ。まぁ、でもそれだとあまりにもアクセスが悪すぎてコンテンツとして死ぬだろうなぁ。

 ケッジのロアを調べてみると、Dagnor's Cauldron はもともと南部が OoT とつながっていたそうな。カルデラだから火山活動でもあったのか、隆起して海から切り離されたらしい。なんと、あの湖は塩湖なのだった!

 ここまでくると、ヴェラント的なこじ付け臭が立ち込めてくる。

メージの杖ヤベえっす

 そういうどうでもいい妄想はさておき、PA といえばクラシック時代はナギー・ヴォックスに並ぶ三大レイドボスである。ただしコイツだけ HP が 18k しかないため、ドラゴンのような強さではない。

 また、12 時間リスポーンという点も手軽だ。裏側の回は日本時間に回ってきやすい。他のドラゴン様もこのぐらいのペースで沸いてくれればいいのになぁ、と思ってしまう。

 PA はウィザードとマジシャンの杖、ローブを持っている。また、それらはエピックのクエストアイテムでもある。

 

 2 ドラゴンのルートはメレー優遇だったので、キャスター向けのレイドボスもいるだろう、それもアレを巨大化させただけ! みたいな適当なものではなくてちゃんとユニークモデルで。そういう理由があったのかもしれない。

 これらは Verious 時代ですでに時代遅れだったが、マジシャンの杖だけは別だ。レベル 60 で覚える最終ペットスペルが水エレで、こいつのレベルを +1 可能な Focus effect がついている。水エレはバックスタブや DD を頻繁に出すし、土エレの root ように場合によっては邪魔になるようなこともないので、パーティーやレイドでは一番使いやすい。

 下で書いている手法を確立するまで、我々はこの魚と死闘を繰り広げてきた。それもこれも、仲間のマジシャンにこの杖を取ってほしかったし、キャスターにはローブというお土産もある。

 結構な数をやったとおもう。

 なのに我々にはツキがなく、マジシャンの杖はなかなか拝めなかった。

 もともとレート自身も結構絞られているようだ。

 そうして、ようやく一本ドロップしたのが 2020 年も暮れようとしている頃だっただろうか。サイコロで P 君が勝ち、ヤツはその勢いで 17k プラチナもの大枚をはたいてトンネルでレベル 60 スペルの水エレをポチ。部室で実験を進めるとやはりヤバい杖であることがわかったので、普段世話になっている TCP 君にも取ってほしかった。

 そこで、PA が沸いているかどうかを確認するペットトラッキング専用のキャラを埋めて監視体制を整えた。たけを氏の Otasuke やナスちゃんの Worochi はシャーマンで、犬ペットで PA がいるかどうかを確認できるし、後述するペットプルにも使える。

 ところで、私のメインはクレリックなので、そのうち地獄の ショールクエスト を、きっとやりたくなるだろう。しかし、East Karana のクモ狩りはクレリックでは不可能だから、マナに依存しない DPS クラスが手元に必要になる。

 そんなわけで作ったサブキャラのメージ、長門

 East Karana は別名「紡績工場」と呼ばれており、テイラーはここに籠ってクモを狩りつつ走りながらコンバインするのを延々と強いられる。私も生地二千枚の生産という地獄を長門で片付けたあと、なんとなく友達のサブにつきあってレベリングをしているとメージが面白くなってしまう。

 そんなとき、ナスちゃんが対 PA ポケモン軍団を募集していたので加勢することにした。メインの TCP 君があの杖をとってくれれば、そのうちサブの私にもぐへへという下心もあった。それに Firepot バインドなのでケッジに急行できる。PA 自体さくっと終わるから大した労力ではないし、こういうものは何かしらドラマがあるから好きだったりもする。

 その活動のうち、2021 年 6 月 ~ 7 月のあいだの 7 回ぶんが撮れていたので動画でつないでみた。吐き気を催すほどの過酷な loot、そして我々の落胆ぷりが見どころである。まぁでもあの頃を思い返せば、TCP 君には悪いと思いつつもその過酷さが一種のエンターテイメントになっていたことを白状したいw

 

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プル

 A Swirlspine Seahorse というレベル 51 のタツノオトシゴ 4 匹が PA の巣にふたをするように配置されている。こいつらは、間違いなくボスよりも手ごわい

 厄介なのが、全員がクレリックという点で 1 プルが必須なのだが、これが結構難しい。4 匹はほぼリンクしており、全員キャスターなので FD プルは運任せなところがある。またこいつらを殺すと 50% の確率で Swirlspine Guardian を増殖させてしまい、全部掃除するまえに最初のヤツがリスポーンしてしまうから、総合 DPS も必要だ。

 設計側も、ボスの前段にギアチェック的なものを置いておきたかったのだろうが、明らかにやりすぎである。

 そこで編み出されたのがペットプル

 ペットクラスであればなんでもいい。その人はゾーン際でバインドしておく。そして、PA 部屋の入口に立ち、一番奥のタツノオトシゴにペットアタックをする。ペットが突っ込んだらゲート。同じゾーン内にゲートをするとアグロは切れないので 4 匹ともゾーンにまっしぐらである。

 もぬけの殻になったところで PA をプルする。完了すればタツノオトシゴのプラーはゾーンアウト。これで厄介な取り巻きをバイパスできる。

 この 4 匹はゾーンまで極悪トレインを発生させるため、予め ooc 等で警告がいる。ヒトケのないゾーンだからこそできる強引なプルである。

タクティクス

 20 年前のあの頃にこの PA で死闘を繰り広げてきた諸氏が上の動画を見てしまうと、失笑を禁じ得ないだろう。

 いいや、当時すでにこういう手法を開発していた人々もいたのかもしれないが、少なくとも私のサーバーではまともに相手をしていた。

 いささか語るには後ろめたいぐらいの代物だ。

 設計側の盲点というか大穴であり、プレイヤーも「メレーは後ろで見物」という割り切りが生み出した手法……なのだが、実際私はコレを楽しんでいたりする。

 コイツは魚のくせに AoE が結構痛い。それにキャンセルマジックがあるためバフがすぐ剥がれるので、タンクも含めてメレー陣のヒールは厚くする必要がある。しかも魚のくせにベリーキャスターなので、キャスターもメレーレンジに入らないとスペルが一切通らない。

 あの頃は 3 パーティー以上が集結してこの魚をやめた何かと死闘を繰り広げていた記憶がある。そのころは、水中呼吸をバフに頼っていた者がほとんどで、サモンされて AoE に巻き込まれて EB バフが剥がされて、しかしチャットウィンドウは 11 行しかないゴミ古き良き時代だったので「hageta」「darega hageda」なんて怒号が飛び交う中そのまま溺死という事故も普通だった。

 そういう理不尽なボスに対して編み出された手法がチェインペットである。

 結果、フルパーティーすら不要。最低 3 人のメージかネクロでやれる。

 ペットをぶつけて、ペットが死んだら即座に再召喚、ぶつけるのを各々が繰り返す。ペットが一匹でもメレーレンジに残っている限り PA はペットを相手にしたまま。チェインをスムーズにするために /pet  get lost  をしたり、少しでもマナをケチろうとして reclaim をするとヘイトが全部術者にトランスファーしてサモン即死するので、ペットはそのまま殺されるに任せる。ペットが死ぬとヘイトも消えるためサモンもされない。

 ペットの HP は 3k 程度、それを 400 マナで再召喚できる。これは実質〝ヒール〟をしているようなもので、それほど効率の高いヒールは CH 以外に存在しない。それにペットは呼吸しないので CM を食らっても問題ない。本来であればペットが死ぬとヘイトも術者に丸ごと移すべきだった。かくしてこの手法は後に Plain of Sky のタンク不能なボスで応用されることになる。

 とまぁ、ケッジ族の最後の生き残りフィニー様は、ペットトラック、ペットプル、そしてこのチェインペットと、ペットどもに散々コケにされるなんとも悲しい運命の魚であった。

 それにしても、ローブが似合う魚とか、好きだから!

 このモデルはクラシック時代が生んだ傑作だと思う。プレイアブルキャラクターだったら間違いなく選ぶのにな……。いや、水中しか移動できないキャラとか流石に無理があるか。